この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。



「申し訳ありません。
   私が付いていながら
   お見苦しいところをお見せしました。」

俺は
足をぴたっと止め
90度に腰を折った。

「いや、
    外に出せないから
    屋敷内で訓練している。
    気を遣うな。

    考えが聞きたい。
    実務にあたり、
    新人訓練をどう配置する?」

総帥は
淡々とお話しになった。
配置…………班長になったばかりの俺に
そんな考えはなかった。


が、


「常に警護対象の方は
    お三方おられます。

    補佐のお出掛けにも付きますが、
    武藤補佐は東北、
    天宮補佐は屋敷を固めておられ
    警護の配置は
    ほぼないかと思います。

    屋敷をお出にならない御前に三人、
    チーフであられた総帥に三人を付け、
    一人を私のチームにいただけたら
    と考えます。」


俺の口からは
すらすらと答えが流れ出た。
考えていたんだ。

四人を見て、
さらに
三人いるとマサさんに聞いてから、
俺は考えていた。


「考えていたのか?」

総帥は、
表情を変えない。


「はい」

俺も、
表情を変えない。
警護の基本だ。


「なぜ?」

ほとんど
被るくらいの速さで
返された。


「瑞月さんを
    守るなら
    5月までに必要な訓練と
    思いました。」

俺は
一拍置いた。



「それで行く。

    班長会議の前に
    書類にしておけ。」

総帥は、
二拍置いた。



でも…………。



「次の班長会議は
    確か…………。」

俺の記憶が確かなら…………。

いや、
まさか、
点滴で頭がボケてるのか?
だって…………。



「火曜日午後2時だ。」

総帥は、
さらりと返した。



「あの…………。」

ちょっと待ってください。
それじゃあ…………。

頭の中は、
新人訓練を含む警護計画を立てるのに必要な時間を
叩き出していた。


今日は月曜日だ。
間に合うのか?!




「明日の午前中まで休暇だ。
    休暇中だが
    警護棟のPCは使っていい。」


つ・か・っ・て・い・い?


「ありがとうございます!」

めったやたらに
でかい声が出た。


総帥、
飛び抜け過ぎておられますから
体育会系のぺーぺーの生活を
ご存知ないでしょう。



くそっ
ハイ!か
yes!か
喜んで!


慣れています。
体育会系一筋27年。
甘く見ないでいただきます!

警護計画書、
耳を揃えて会議に間に合わせて見せます!

頭を下げながら
俺は
かっと燃え上がっていた。




「お前に立ててもらいたい。」

…………え?


熱くなった頭に
ひどく素直な言葉が降ってきた。

なんだろう。
さっきも感じた。
思ったままを言ってくださっている。

そう感じた。
そう感じて…………じんとした。




「お前なら、
 なんとしても
 5月に間に合わせるだろう。」

総帥は
静かな声で
そう続けられた。

〝お前なら〟
〝お前なら〟

その言葉が谺した。




「お前は
 瑞月を守るために
 最善を尽くしてくれる。

 信頼している。」


俺は、
言葉がなかった。
胸が一杯になっていた。




人質救出訓練を
御指導いただいた時の思いが
脳裏にどっと甦った。


〝この人に認められたい〟

心底そう思った。




「ありがとうございます。」

今度の声は
低かった。
自分でも驚くほど低かった。


ちょっと泣きかけていた。




「私は
 瑞月さんを
 必ず守ります。

 守らせていただき、
 感謝しています。」

そう言葉が続いた。
考えてしゃべったんじゃない。
自然に湧いて出た。


総帥を
俺は
真っ直ぐ見つめた。



総帥は、
ちょっと小首を傾げられた。
言っていいか
迷っておられたのかもしれない。



「瑞月は…………」

総帥が答えようとされたのを
俺は遮った。
自分で言いたかった。



「分かっています。
 瑞月さんは
 総帥を思っておいでです。」

言い切って
胸が痛んだ。

辛かった。
いや
高遠に比べたら辛くない。
辛くないぞ!

目がやばいことになってきた。
瑞月に見せられない。

止まれ!
止まれ!
涙止まれ!!



「知っている。
 言いたかったのは、
 違うことだ。

 瑞月は幼い。
 子どものまま
 お前を信じている。

 報いてやってくれ。」


総帥は、
それだけ仰有って
振り向かれた。


階段を上っていかれる。


俺は
一生懸命
涙をこらえた。

瑞月が待ってる。

瑞月が待ってる。

それだけ考えてこらえていた。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。



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