この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





海斗は、
すっ

膝をついた。


「失礼します。」

声を掛けて
さっ

襖を開いたわ。



瑞月は、
座り損ねて、
ポウッ

中を見詰めてる。



男性陣、
みんな着物に羽織に
なんか腰から下はドレスかしら。


ざっ

こちらに向きを変えると
頭を下げる。


「お待たせしました。」

海斗も
静かに膝に手を置いて
頭を下げた。




おじいちゃんは
着物姿が
わりと可愛いのよ。
妖精みたい。

おじいちゃんは
頭を下げてない。

にこにこ
キャッキャと見てくれてる。


「起きたか
   起きたか
   瑞月ちゃんや
   可愛いのう。

   さあ、
   瑞月ちゃんも
   ご挨拶じゃ。」



おじいちゃんのお隣、
マサさんね。
瑞月を見る目が優しい。



着物姿の男たち、
みんな
背筋が伸びてて
キリッとしてる。

肘を張って両手を膝に乗せてる姿が
すっきりと男らしい。



「瑞月ちゃん!
   お邪魔してるよ。
   えらく別嬪さんじゃないか。
   惚れ直したぜ。」
 

中でもマサさんは、
格好いいわね。


声の渋さが
着物に似合う。

正装なんだけど破天荒。
ちょっと崩した話っぷりに
色気がある。



「瑞月、
   座って
   ご挨拶よ。」


咲さんが
言葉を添えてくれた。




あっ、

気付いて、
瑞月はぺたんとしゃがむ。



ニャー

よじよじして、
私は瑞月の腕を抜け出した。
私を抱っこしたままじゃ
まずいでしょ。




「こんばんは。」

細い指先を畳について
瑞月は
きちんと
頭を下げる。



頭を上げると
ニッコリしたわ。

ほうっ

室内の男たちが声を上げる。
海斗は動じない。




瑞月の肩に手をかけ、
室内を見回した。

「お待たせいたしました。
   夕餉としましょう。」




こうして見ると、
海斗の着流しは目立つ。
長の服装ということかしら。
ちょっとくだけた感じだもの。


長と巫。
そして、
臣下の男たちが
その前に居並んでいる。



咲さんは何の役かしらね。

咲さんは
黒地に桜の裾模様。
髪は結い上げてまとめてる。
うなじが綺麗。


海斗が咲さんにうなずく。

咲さんは
すっ

膝を進め一礼した。


「お待たせいたしました。
   夕餉の席に
   ご案内いたします。」




「さあ
   瑞月、
   総帥とご一緒に
   ご案内ですよ。」

「はい」

素直にお返事する瑞月に

「似合いますよ。
   ほんとに似合うわ。
   嬉しいこと。」

咲さんが
優しく声をかける。



「ほんと?

   みんな着物だから
   ぼく……。」




ああ、
そうね。
ドギマギしてたんだ。


やっぱり
かなり特別な礼装なのね。
このドレス。
黒づくめも
なんか迫力だし。



「瑞月ちゃんは、
   巫になったんだ。

  そりゃ、
  海斗さんと結ばれたってことだ。

  お祝いしようって
  御前に誘われたのさ。」


マサさん、
大した方だこと。

一声で
場を温かくしてくださった。




「ほんと?

   嬉しい!!」

瑞月の声が弾む。





「ほんとじゃとも。

   おや?
   瑞月ちゃん、
   ちょっとお目めが赤いよ。」


おじいちゃんたら、
すぐ
余計なことを言い出すんだから。




瑞月が
また
ばか正直に赤くなっちゃったじゃない。



「あっ、
   あの、
   海斗が女の人といて、
   悲しくなったらね……。」


ニャー

ちょっと、
主語が間違ってる。
海斗じゃないでしょ。




「女の人?!」

ほら、
臣下たちが色めき立っちゃった。




「海斗さん……。」

マサさんの声が
低く響いた。





「勾玉の夢です。
   何でもありません。」

海斗が
小揺るぎもせず応える。



しーん

しちゃった。


この二人、
声にドスが利き過ぎなのよ。





「そしたらね、
   海斗が誓ってくれたの。

   ぼくだけだって。」


ぽつん

甘い甘い声が
恥ずかしそうに沈黙を破る。


見ると
目を伏せて
頬を染めた瑞月が
もじもじしてたわ。


ふうっ……。
やけに大きな溜息は、
伊東さんかしら。




「そりゃ
   よかった。

   いいタイミングだったね。」

拓也さんが、
立ち上がってドレスを
パタパタしながら言った。




たけちゃんは、
黙って立ち上がった。

マサさんが
たけちゃんをじっと見詰めてた。



たけちゃんは
瑞月の前に膝をつき、
瑞月の頭を撫でた。


「瑞月、
   嬉しそうだ。
   よかったな。」


「うん!」

瑞月がたけちゃんを見上げて
ちょっと涙ぐむ。





「目出度い!!」

マサさんが膝を打ち、

「では、
   行こうかの。」

おじいちゃんがにっこりする。




伊東さんが
襖の脇に控え、
咲さんが宣言したわ。



「筍尽くしにいたしましたのよ。
   さあ、
   皆様、
   参りましょう。」


さくらの装いの瑞月が
海斗に手を取られて立ち上がると、
母家の空気が
すうっ

静まった。





ニャー

私は
ひげをぴくぴくさせる。

このお屋敷も
喜んでるんだわ。


儀を終えて
長と巫は
城に戻った。


お目出度いこと。




さあ、
あなたのお祝いよ。
海斗とあなた。
私たちが守ってあげる。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。



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