この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





今日は、
囲炉裏端を離れての
お食事会。
初めてのことだわ。


無粋はしないで
廊下に出たら、
不思議な活気に浮き浮きしちゃった。


割烹着の咲さんが
司令塔ね。
女衆がテキパキ立ち働いてる。


囲炉裏回りは作業場になってた。
黒地に素敵な絵のついたお椀や台が
次々と綺麗に拭われて
並んでいく。

小さなお皿は
深い赤や青の縁取りに
お花の絵が描かれたお揃い。


いつもの
大きなお皿と取り皿が
ひっそり棚に片付いてる。


日本のお城のパーティーかしら。


畳いっぱいに
ご馳走を乗せる器の花が
咲いてるみたい。



いつもは見ない男の人たちね。
THE職人!!
みたいな白い上っ張りで
土間を仕切ってる。


特別なお客様、
マサさん。




お友達なら
おじいちゃんは、
囲炉裏のお部屋でワイワイお食事したがる。


このお屋敷でも
けじめの会をするのね。
マサさんは、
お友達ってだけじゃない人。
そういうことかしら。




ひとしきり
お料理作りの様子を窺ってみて
今日は
おこぼれは無理ね

見極めを付けたわ。


隙なし
油断なし
猫に分ける無駄な食材なし

3ない尽くしで
整然と動き回る職人さんたちなんだもの。



でね、
どうやら立て込んでるし、
瑞月は海斗に任せとけばいいし、
洋館に戻れないかしらん

咲さんに頭を擦り付けた。


咲さんなら
いつも
私の都合も
考えてくれるから。




そしたら、

「黒さんにも
   お膳をつけますよ。

   大事なお猫さんです。」

と、
にっこりされた。





あら、
光栄だわ。


とすると、
このお食事会は、
私も勘定に入るけじめの会ってことになる。

瑞月を守る決起集会?





お膳をいただけるなら、
お勝手をうろうろしてるより、
見物と洒落こみましょう。





ここが会場ね。
低いテーブルに
脚のない椅子みたいな席が8つある。


カナダから来た日に
ここで
おじいちゃんに会ったわね。

お庭に向かう
素敵な作りのお部屋。




欄間の意匠は鷲と波だったんだわ。
掛軸も同じね。
おじいちゃんのお部屋のだわ。




襖は桜。
ほんとに綺麗。
ただ一本のさくらが咲き誇っている。


………………海斗と瑞月が、
お屋敷に見守られて愛し合ったお部屋でもある…………。



長と巫の愛を
お屋敷が判じたのかしら。




鷲羽は守り、守られる。
定めは二人を選び、運命を託す。
不思議なお屋敷だこと。
わたしも選ばれて走り回ってる。



でもね、
二人は愛し合った。
大事なのはそこ。
定めは、
二人を選んだけど、
二人も定めを選んだ。


純粋な一つの魂が見える。

その純粋を
私は守るだけだわ。






いつの間にか
ずいぶんと暗くなった。

さて、
食事に集う8人は
そろそろ揃ったかしら。

玄関を入ってすぐのお部屋に
お茶を用意してたわね。

あそこが
控えの間かな。




中から
声が聞こえる。

うーん
ここに爪をかけたら、
きっと問題ね。



「似合うぞ、
   たける。」

マサさんかしら。
渋い声だこと。




「止めてください。
   慣れてなくて
   さっきからムズムズしてるんです。

   マサさんも伊東さんも
   姿勢が決まってて
   格好いいな
   って
   思ってたところなんですから。」

たけちゃんね。
気持ちの良い声。
うーん
どんな格好してるのかしら。


「あの……、
   瑞月さんも着てるんですか?」

心配性の伊東さんね。


「まさか!

   振袖といきたいところでしたが、
   諦めました。
   さぞ似合ったでしょうに残念ですわ。

   可愛いらしいピンクの服を
   選びました。
   綺麗と褒めてあげてくださいな。
   喜びます。」

「褒めるとも。
   可愛いじゃろうなぁ。

   楽しみじゃ。」


そうね、
おじいちゃん。
咲さんが言うんだから、
間違いないわ。
私も楽しみよ。


でも、
どうしようかな。
おじいちゃんも咲さんも中じゃない。
誰に頼んだらいいかしら。


鳴いてみようかな。
中に入りたい。




パタパタ

廊下を
小走りに走ってくる足音が
聞こえる。


小さな足音は、
廊下の曲がり角の向こうに
ピタリ

止まった。



「ねぇ、
   ほんと?」


可愛い声がする。




「本当だ。」

少し遠い海斗の声。
あなたって
足音しないのよね。



「世界一綺麗?」

ああ、
小首を傾げてるでしょ、瑞月。




「世界一綺麗だ。」

聞いてられない甘い会話が
曲がり角に
揃った。


そして、
廊下が
いきなり光に満ちた。


まあ!
ふわふわの白いカラーが
瑞月の細い首を包んでる。
白い花びらみたい。


ああ、
ブラウス全体に花びらが
染め抜かれてる。
左肩から流れる襞が
舞い散るさくらを写したみたいだわ。

濃いピンクが
纏いつくように腰までを覆い、
優美な曲線が婉然と立ち姿を描いてる。


お化粧もしていないのに、
あなたの唇は朱を帯びる。

頬が上気してる。
うっとりするわね。
色合いがなんとも言えないわ。



私たちの長は、
着流しに羽織姿で
現れた。


花を抱く者。
森林を統べる黒狼は、
端正な佇まいに
その牙を見せない。


そうね。
〝いい刀は鞘に入ってる。〟
あなたは、
抜き身を納めて
王の道を進むことを選んだ。
その花を守るために。




ニャー

「黒ちゃん」

瑞月が
パッと顔を輝かせる。


はい
抱っこね
ありがとう。


「黒ちゃん
   大好き!」

はい
キスね
私もよ。




あのね、
瑞月、
あなたを守る者共は、
今日、
誓いの会をします。


これは、
それぞれが、
あなたと出会って決めたこと。


素敵よ。
あなたたちの選択。
スリリングなところが、
また
そそられる。

さあ、
早く合流しましょう。
わたし、
お腹空いちゃったわ。






イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。


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