この物語は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






あれは…………海斗?
ううん、
ぼくの海斗じゃない。


誰?
綺麗な人。
すごく綺麗。


道子さんじゃないよね。
だって……似てない。
パーッ

華やかな感じ。


誰……かなぁ。



勾玉の子は
見てる。

見てる。

見てたんだ……。



女の人って
どうして
海斗のこと見るんだろう。

嬉しそうで、
楽しそうで、
独り占めしてるみたいで…………。



ぼく……
居場所がない。




ユキさん
こわかった。

海斗を連れていっちゃいそうで
こわかった。


ユキさん
かわいそうだった。

海斗をもらえなくて
かわいそうだった。



あの人、
ユキさんかな。

あの人、
かわいそうなのかな。




黄色の服がお日様みたい。


帯の模様、
すごく細かい。
綺麗な糸が波みたい。
赤い帯がキラキラ模様で
ドレスみたい。



木陰にいるんだ。
涼しそう。
笑ってるよ、海斗。
ううん、
海斗じゃない。


ちがう

ちがう

忘れちゃだめ。



勾玉の子も

悲しんじゃだめ。

だって

ぼくたち

勾玉もってるんだよ。



だいじょうぶ。

だいじょうぶ。

だいじょうぶだからね。




誰かが
ぼくに触れる。


誰かが
頬を撫でる。


知ってる。

この指を知ってる。



ぼくが知ってる指は

一つだ。



ぼくが欲しい人は一人だけ

ぼくが欲しい指は、

ぼくが聞きたい声は、

その人のだよ。



大事なホント。
変わらないホント。





「瑞月……。」

その声は低く響くよ。




少し悲しそう。

少しドキドキしてる。

ぼくを思ってる?

ぼくにときめいてる?





目を開ける。




ほら、
ぼくだけを見てる。

ぽうっ…………。

ぼくの心に灯が点る。
ぼくの胸に翠がゆらめく。





海斗が
ぼくを見下ろしてる。


優しい海斗だ。


ぼくは手を伸ばす。


ね、
海斗は
ぼくを抱き締めるよ。



「ほら、
  だいじょうぶでしょ?

ぼくの口から
言葉が零れる。



「ああ、
   だいじょうぶだ。」

海斗が
囁き返す。


そしてね、
ちょっと腕を弛めるんだ。



ぼくは
もう一度
海斗を見るんだよ。


「今日ね、
   音羽先生、
   すごく褒めてくれたみたい。」


「そうか。」

海斗が笑う。

嬉しいの?

困ってるの?


「ぼく、
   海斗が
   大好きなんだね。」


言ってみる。
だって
ほんとだよ。


海斗が輝く。
お日様になる。


ぼくは抱っこされる。
あったかくなる。


うふふ
言って正解。

大好き

大好き

大事なホント。



だいじょうぶでしょ?


ぼく、
勾玉の子に言ったのかな?

…………ぼくに勾玉の子が言ったのかな?


ぼくたちが海斗に言ったのかな?




海斗が輝く。

ぼくは幸せになる。


幸せだよ、海斗。

だいじょうぶ

だいじょうぶだよ




イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。