この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





〝ご自身で起こされますか?〟


咲さんは
さらりと問う。

〝はい。
   あなたの許可がいただけたら。
   お母さん。〟


思わず
そんな答えを返していた。






大型連休に予定したイベントに障る小石を事前に取り除くには
表も裏もそれなりの準備がある。



咲さんは
今は武藤の出番だと
割烹着に身を包んだ。

〝お夕飯は
   期待なさってくださいな〟

女衆の頭領は
俺たちを送り出した。





小一時間ほどで
会合は済んだ。


武藤が前面に出て
話を詰めていくのを
俺は
見ていた。




武藤を満たす〝熱〟が
見てとれた。

武藤は
この一連の流れに
入れ込んでいる。


そこに〝何か〟を打ち立てる!!


じいさんの言う
〝みんなを幸せにする〟推進力は、
お前にあるな。
思いは熱をもち、
具体的なイメージはみるみる形を成していく。



それが真に具現化するには、
咲さんの知略が
その切れ味を見せる。
イメージは
確かな実体をもつ。




鷲羽の全容を俯瞰する俺は
この両翼で
目指すべきものを見据える頭だ。



構築されるものを精査しながら、
今の俺を見詰める俺を
俺は感じていた。





見たもの
語り合った人。

武藤は
そこに心を添わせ
動き出す。
武藤の熱はそこに宿る。




熱いな、武藤。

人に添いながら
揺れながら
それでも飛ぶお前は
熱く燃え、
深く苦悩するんだろう。




俺は熱に苦しまない。
精査する事実は事実として、
俺の中に整理される。


俺を揺らすのは
ただ一人だ。

〝だっておかしいよ〟

瑞月の涙が俺を動かす。


夢中になる武藤に
俺は
どうしようもなくお前だけに寄る自分を
噛み締めていた。






小一時間を終え、
客人は
ふっ
と笑った。

〝大した若頭だ。

   海斗さん、
   あっしは気に入りましたよ。〟



〝ありがとうございます!〟

武藤は声を弾ませ、
俺は黙って頭を下げる。


マサさんは
にこにこと客間を出て
案内の女衆について行った。




武藤は夢を語り、
俺は瑞月を思った。

祈りを込めてお前は舞った。
喜ぶだろう。



天使は舞う。
人の悲しみを受けて祈り
人の喜びに弾んで祝福する。

この天使は俺を映す。
してみれば、
俺も、
そこに繋がるものを
もっているのだろうか…………。




俺と武藤は
洋館に戻ろうと
勝手口に向かい……咲さんはにこりと
俺たちを迎えた。


〝休ませておりますのよ。

   一曲、
    滑り終えましたら
    体が熱をなくしたように
    冷たくなったとか。

    コントロールが利かないのは
     変わりませんわね。
   
     いえ、
     むしろ、
     巫となり手放したように
     思います。〟


舞う瑞月が
まざまざと浮かんだ。



「ご自身で起こされますか?」



俺のしたことを
あなたは
知っているのだろう。



負荷を顧みず
ただ感じたままに舞うお前に
人の体は黄信号を点滅した。



ほろ苦い後悔を感じながらも
俺は酔う。

俺を感じて舞うお前が
俺を酔わせる。





俺は詫びます。

その命も
その心も
俺が守ると誓いました。


泣かせません。
その願いを思います。

縛りません。
ただ、
そのとき
そのときを
愛していきます。


舞うままに
思うままに
寄り添っていきます。


そして、
乞います。


俺は
瑞月を乞います。

俺に
共に過ごすときを
ください。



「はい。
   あなたの許可がいただけたら。
   お母さん。」



イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。


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