この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







まあ、
凄味が結晶してる。

いきなりアップなんだけど。




ほつれ毛に
優しく伸びる手

背けられ
頑なに拒むうなじ


肩に流した黒髪と
その下に覗く白い肌が
うわーっ
て感じに目に飛び込んでくる。


このうなじは…………危ない。
見てる方はたまらないわね。
目のやり場に困っちゃう。



やれやれ
当分
アップは変わりそうにないわね。


えっと
池の畔かな。
キラキラ光る水面が見えてる。

草の匂いがする。
暑いわ。
木陰に吹く風が心地よい。




「館におるのが
   辛いか?」

深みのある声だわ。
この人、
海斗の声だ。
長ね。



「…………なぜ置かれるのか
   わかりませぬ。」

硬い硬い声ね。
心を包む鎧が透けて見える。




夏の瑞月みたい。


強がってる。
そのくせ
自分なんかどうでもよくて。




重なる表情に
思い出すわ。



食事のたびに繰り返される

〝食べろ〟
〝あとで食べます〟
〝今だ〟
〝いりません〟


子どもだった私には
ひどく居心地悪かったわ……。

ぴん

張り詰める緊張感。


あれって
こんな感じだった。






温かな笑い声。

「我にも分からぬ」



凄味は無視ね。
それって
なかなかできないものよ。




「いてくれぬか?」

優しいわ。
包み込むような響きが
心地いい。




「なぜ?!」

振り返った!
凄い目ね。
突き刺さってくるわ。


野生の豹で
手負いかな。




「いてほしい。」

長は返す。

視線がぶれない。
真っ直ぐ見つめ返してるのね。



もう決めてるみたいだけど
恋?
同情?

そこ大事よー。





「なぶるのは……お止めください!!」

血を吐く叫びが
池の畔を震わせた。


危ない!!
華奢な体がスローモーションで
崩れ落ちていく。



視界がグラッとして、
腕に重みがかかる。

黒髪が目の前で揺れて
ふうっ

いい匂いが鼻をつく。



ああ、
池に落ちかけたのね。
無闇に逃げようとするから
足を滑らせたのか。



この子は、
あなたの好意を同情だと思ってる。
それは、
何より辛いことよ。





「…………伽を、
   伽をお申し付けください。」


食い縛った歯の間から
ようやく
声が洩れた。





あっ…………。

いきなり
背が木に押し付けられたわ。

え?
海斗?
私……この子に移ってる。





長の長い髪が
頬に触れる。
静かな眸に見下ろされてる。
……動けない。





見詰められたまま、
上着の裾に
手を入れられる。

ヒッ……。

息を引く音が喉から洩れて、
目が瞑られた。





瞼を通して
影が見えるわ。

心臓が
ドクン
ドクン
ドクン
って打つのがわかる。





「どうした?
   伽を望んでいるのだろう?」

耳元に
囁かれる。

   あ…………。

この子は、
声も出せない。






ふわっ

体が自由になった。



目が開かれ、
目の前に海斗の顔が見える。

微笑んでる。
緊張が緩んでいくみたい。




「望んでもいないことを
   口にするな。

   手籠めにしろとでも
   言うつもりか?」


肩にかけられた手に
無闇な力は込められていない。


この子は
目を逸らした。





ああ、
水面に水鳥が見えるわね。
つがいの二羽かしら。


毛繕いしてる。
仲良しだこと。




ずいぶんと
時間が過ぎた感じね。





「では……ではお手討ちに!
   この命をお召しください!!

   あなた様のお命をねろうた者を
   なぜ
   お館に置くのです?!」


俯いたまま
この子は訴える。

見上げる。
長は
ただ静かに見返してる。

カッ
としたのかしら。
長を見詰めたまま昂って止まらない。





キャッ
あ…………ん。

ちょっと海斗!
じゃない
長!!
私には心の準備させなさいよ!!



溶けていく。
体の芯まで熱くなる。
優しいキスなのに
逃げられない。


逃げたくない
もっと欲しいの?
体が素直にほどけていくわ。


唇が離されて、
吐息が洩れる。



「俺を殺めに参ったのだろう?
   こうしよう。
 
   いつ狙うてもろうてもよいぞ。

   その代わり
   失敗したら
   我の好きにさせてもらう。

   そなたは
   我の望むことをする。
   どうだ?」

ぼんやりする頭に
楽しそうな声が響く。



「……望むことを?」

掠れた声が答えてる。
膝は力が入らない。  

長にすがったまま
この子は繰り返した。


「望むことを何でもだ。」


抱き上げられ
馬に乗せられた。


「さあ
   館に戻るぞ!」


まだクラクラする。
お腹のとこ長の腕が支えてくれてる。
馬って揺れる。
揺れるたびに長と溶け合ってく。


恋の始まりは
なかなかスリリングね。



瑞月、
このまま深く眠りましょう。

恋のときめきだけ
覚えときなさい。

少しずつ
少しずつ
大切なときに
必要なら思い出すわ。


さあ
眠りましょうね。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。



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