この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






〝まず、
   お風呂ね。
   軽くしか食べてないんだから
   おやつはお腹にたまるものがいいわね。
   フレンチトーストはどう?〟


〝ありがとう!
   あのね、
   生クリームたくさん!!〟

〝いいわよ。
   さあ、
   お風呂行ってらっしゃい。

   西原さん
   御手数だけど
   外をお願いします。〟

〝はい〟



湯を張った浴槽ほ
檜の匂いを
漂わせる。


ここにも桜か…………。

格子窓から湯気が零れる。
風呂は高遠の担当だったはずだぞ、瑞月。




カラカラカラ……。

湯殿に入った。



湯を汲む。
掛ける。

カタン
桶を置いた。



ピチャン
ピチャピチャ

手拭いをすすぐ。



風は花びらを散らす。

大振りの枝が
ゆらゆらと揺れる。


ああ
これか
お前は風に舞う花びらを
見ていたのかな。




木綿は肌を擦る。
その幽かな音さえ
影もない庭には届く。




ひっそりと
真っ白な花が湯殿に咲いている。




手拭いを握る華奢な指先が
胸から腹へと
一心に擦り上げていく。


身を捩らせて
背に回し
キュッキュッ

腕を動かす。


足を伸ばして
その足を擦る。



目に浮かぶ。

目に浮かぶが
それは言えない。



「トムさん
   いるー?」


だって
お前は確かめる。



「まだいるー?」


繰り返し

繰り返し

確かめるんだ。



俺がいるのが
お前の安心だ。


「いるぞ」

だから
俺は能天気に応えるんだ。

何回でも応える。



桜吹雪のその中で
檜の香をかぎながら
この苦行を俺は耐える。


パチャン……。
お前が湯に入った。


「わー
   トムさん
   さくらさんが
   お別れ言ってるみたいだね。」


「そうだな。

   綺麗だ。」


「うん!

   綺麗  綺麗!!」






お前は
ふっ

静かになる。


一陣の風に
花びらは渦を巻いて広がった。



ああ………………


小さな嘆声が上がる。

美しいな。
美しいものをお前と見た。



ありがとう



画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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