黒猫物語 浮舟の選択 小景 玉座と祭壇
NEW! 2016-08-19 12:04:59
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。









二人は入り、
ドアは閉まったわ。

しんと静まる廊下には
闇もなければ
不思議な光もない。

ここは
遠く海を渡って移築された洋館。

一階には書庫と客室
二階には家族の居室

落ち着いた色合いに住む人を包む
人の世の空間が広がる。



さっきまで
石の光が
語っていた物語は、
もうない。


陶酔に揺らぐ翡翠
征服に逸る翡翠


無邪気な贄を祭壇に運ぶための階段
贄の儚げな風情を愛でる王


その物語は
このドアの向こうにある。


さあ
見せていただかなきゃ。


カタン
私は
ドアを抜けた。



ウフフ

ベッドに
瑞月を抱いた海斗が
踞っている。



「瑞月、
お前を見たい。
いい子だ。

一人で
横になってごらん。

きっと
すごく綺麗だ。

俺は
それが見たい。」

クスクス
ウフフ

「朝から
見たかった?」

瑞月のくぐもった声が
可愛らしくて
甘い。


「見たかった。

さあ
俺は離れる。

いい子だ。
横におなり。」



海斗は
ベッドを離れ
瑞月は、
ベッドに残る。



大きな椅子。
海斗は座り、
瑞月を見詰めたわ。


似合う…………。


ガウンを羽織り
逞しい胸から
茂りに翳る下腹までを
惜しげもなくさらし、
ゆったりと座る王の姿が部屋を圧してる。


その胸には
翡翠が
威を示す。


そうね。
あなたは命じた。

下がれ!!

闇は逃げ散り
ここは光の宮になった。


目に見えないものは
たくさんある。
あなたは
それを統べる王だわ。


そこは玉座。






大きな寝台に
瑞月が
横たわる。


ちょっと緊張してる。

クスクスとウフフ
出なくなったわね。




まあ
艶な姿だこと。


細い腕は胸を覆い、
僅かに引き寄せた掛布に
細腰は隠されている。



羞じらいはね、
媚態っていう武器になるのよ。

瑞月は
もう
覚えたのかしら。




海斗が
優しく命じる。


「瑞月、
その腕を外してごらん。」


瑞月は目を伏せる。
睫毛が震え、
胸にある手も震えてる。


ふわふわは消えちゃった。
海斗が怖い?




「海斗……」

細い声が
すがる。


「約束だ。」

海斗は優しく応える。



ゴクッ
瑞月が唾を飲み込む音が
海斗も聞こえたでしょうね。



そろそろと
胸から腹へ
細腕は下ろされた。



真っ白な肌。
小さな突起が
可愛らしいピンクに色づいている。



海斗の声が
部屋を渡る。


「いい子だ。」


瑞月は、
顔を背けてる。
羞じらいに目も眩む思いよね。




そして、


石は…………透明になってく。

綺麗だわ。
無垢な魂が剥き出しに
なっていく。



「待った甲斐がある。
綺麗だよ。


さあ
腹を見せてごらん。」


瑞月が
海斗に視線を投げ掛けた。
涙目ね。


海斗は
優しく見詰める。
揺らがない。



張り裂けそうな目を
海斗にあてながら

腕は
腹から滑り落ちていき、
シーツを
固く
握り締めた。





常夜灯の薄明かりに浮かぶ
繊細に切り込まれた
下腹の窪みは、

羞じらう瑞月を他所に
ゆったりと上下し
息づいている。



「瑞月、

その縁を
辿る俺の指先を感じてごらん」


すーっ
と翠に石は色づき
瑞月の胸は、
喘ぎに上下を始めた。


「いい子だ。
正直だね。

さあ
その掛布を
外してごらん。

お前が感じていることを
確かめよう。」




海斗は
優しくて無慈悲だ。


瑞月は
魅せられたように
海斗を見詰めながら首を振る。


「い、いや……。」




海斗は哀しそうな目を
してみせる。


「外して
瑞月。

朝から
ずっと思い描いた。

お前が俺を
欲しがってくれる姿を思い、
ただ待ち焦がれた。

さあ
いい子だね。」



瑞月の背けた首から肩が
瘧を起こしたように
震えてる。





僅かに上げた手で
掛布は引かれ、
微かな嗚咽とともに、
瑞月の全身が寝台に晒された。




王は
ゆっくりと
玉座を後にしたわ。


祭壇に上り、
贄を抱き上げる。


「いい子だ。
綺麗だった。」


膝に乗せられ
涙を吸われ
啜り泣きに
喘ぎがまじる。


王の唇が
少年の唇を覆う。




身を捩り
また
深く捉えられ
少年は堕ちていく。


王が
唇を離せば、
熱い吐息を洩らし、
もう
幼い欲情を隠そうとしない。



「いい子だ。
次に進むよ。

これをご覧。」



海斗は
枕元から
小さな壺を手にした。




「ご、御褒美?」

「いや
御褒美をもらう
準備をするんだ。」




海斗が蓋を取ると、
一瞬で
部屋は花の香りに満ちた。



「いい匂い。」

瑞月は、
うっとりと
目を閉じる。


そうね。
甘くて上品、
あなたそのままの香りよ。




「これは
月下美人の香りだ。

一夜限りで散る。
が、
美しさも香りも極上だ。

宿の主が
お前を月下美人だと
言ったろう?

主が餞にくれたものだ。」



瑞月が見上げる。

「お薬?」


海斗が
瑞月を寝台に抱き下ろす。

真上から
瑞月を見詰める目が
とっても優しい。


瑞月が
それを不思議そうに
見上げる。


「いい子だ。
すごく欲しいものが手に入ると
すごく嬉しいだろう?」



「うん
分かるよ。」

瑞月は
無邪気に応える。




海斗の
優しい声。

「だから
ぎりぎりまで
俺を欲しがってごらん。

とても気持ち良くなる。

分かるか?」



瑞月は、
ん?
と小首を傾げる。


「僕、
いつも
すごく気持ちいいよ。」




もう
王は
贄の問いには
応えない。




「可愛い……。」

王は
また口づけを与える。
意識の半濁した少年は
譫言のように
王の名前を
呼び始めた。




つーーっ

香油は
一筋の糸となり
煌めいて
少年の背に流れ落ちる。




祭壇に
贄は捧げられた。


「いい子だ。
咲かせてあげる。

お前は
もっと綺麗になる。

最高の瞬間に散らせてやるからね。」




海斗は
瑞月を奏で始めた。
まるで琴を爪弾くように
その体を鳴らしている。



薄闇に
瑞月の体がしなう。



身も世もなく
泣き悶える姿を
王は
愛しげに見詰める。



王は
時折
贄を抱き上げて囁く。


「いい子だ。
嬉しいよ。

さあ
もっと欲しがらなきゃ。」


贄が
息も絶え絶えに哀願する。

「お願い…………」

すると、
また、

何処やらを責められ、
瑞月は、
反り返り、
全身を震わせる。



ついに、
贄は
王の張り巡らせた
悦楽の糸に
その身を縛められ捧げられた。


悦楽に酔いしれ
焦点を失った眸

汗にしとど濡れ
なすがままに揺れる肢体


翡翠の光が
妖しく
瑞月を浮き上がらせる。




「さあ、
どうしたい?

〝お願い〟じゃ
わからないよ。」


海斗が
優しく髪を撫でる。




掠れた声が
願いを告げる。


「僕を…………コロシテ」



王は、
ガウンを滑らせた。

その衣擦れの音に
贄は
目を閉じる。



王は
優しく姿勢をとらせた。




「御褒美の時間だ。」




瑞月は、
それは綺麗だった。



海斗の腕の中で
舞うように揺れる白い胸に
翡翠が煌めく。



大輪の白い花が
重なる。

月下美人

綺麗な花ね。




瑞月が
海斗の頭を抱き寄せる。


崩れ落ちては
また蔦のように
その肢体を絡めていく。

深く
深く
ただ深く繋がろうと
無心に求める。



絶え入るような声に
海斗が
止めを刺そうと挑めば
微笑んで深みへと誘う。



甘い喘ぎ

求める切ない声

花を追いじゃれつく狼は

いつしか

その花弁の迷宮に迷い込み

恍惚としている。



海斗

海斗

海斗

………………。


贄は
太陽神に捧げられ
再生の儀は終わった。


王は
伴侶の純潔に満足し、
伴侶は
より深く貪ることを学んだ。



外に出れば
誘惑は
たくさんあるものよ。


でも、
学びも
たくさん
あるの。


出したげなさいね。


だいじょうぶ。
その石、
浮気探知機にも
使えるじゃない。


純潔の透明な光。
羞じらう瑞月は
あなただけのものよ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます



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