この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





☆海斗



投げ出してあった掃除機を
屋根裏から下ろしてきた。



ガラスはガラスで
昨夜の内に処理してある。
問題は粉塵だが、
掃除の行き届いた室内だった。
だいじょうぶだろう。




掃除機のクリア瓶を開けると
花びらは
ファサッ

落ちてきた。


花びらばかりが吸い込まれた
透明な瓶の内側には
何枚かの花びらが吸い付くように
残されている。





それを
丁寧に取り出し
掃除機を片付けた。





怒っていた。
一生懸命怒っていた。




言わずにおこう。
警護のモニタールームから
縁側のお前を盗み見たときのように。



言わずにおこう。
もしかしたら命綱となるかもしれない
この回線のことは。





もう開かない。
今、
謝っておく。
使うべきときではなかった。




次に
お前が怒ったときは
話をしよう。


お前も逃げるな
俺も逃げない





だが
許してくれ。
この回線はいつか必ず開くときが来る。
そのとき
これがお前を救えるために
今は秘密にしておく。



一枚一枚を
そっと拭う。


お前を拭うように
心をこめて拭う。


大切に
大切にする。


お前を
俺は
大切にする。





☆伊東


ドアは俺が開けた。


瑞月さんは
俺を見上げてから
一歩踏み出した。


あなたは
自然に先に出る。
強くなりましたね。


〝我が儘だったこと、
   謝ります。〟

ちょっと舌足らずな
甘い声が
耳に心地好く甦る。


キラキラおめめで
にこっ

笑うあなたは
なんて可愛いんだろう。


目の前を
ふわりと抜けていく
ピンクのカーディガン。


仄かにいい匂いがする。
本当にお花みたいだ。



「あ…………。」

また
可愛い声。



ドアの向こうに
駆け寄るあなたと
立ち上がる総帥が見えた。


白いワイシャツの胸に
ピンクの花が咲いた。


ごめんなさいは、
もう囁かれたんだろうか。
お二人は静かに抱き合ったまま動かない。


俺は
そっとドアを閉じる。
入る必要などない。






☆瑞月



あったかい。
すっぽり包まれて
ぼくは目を閉じる。


「許してくれ」

海斗が囁く。



「ごめんなさい」

ぼくが囁く。



さくらさんが
テーブルで
ふわふわしてる。


窓から
くるくるって
入ってきてくれたまんまの
綺麗なさくらさん。



「埃を拭っていた。」

「うん」

「綺麗にしよう。」

「うん」



ぼく、
幸せだ。


海斗に愛されて
幸せだ。


ぼく、
たくさん愛されてる。


海斗、
海斗を愛せるぼくになるよ。


愛されるって
すごく幸せだもん。


ぼく、
海斗を幸せにしてあげたい。





☆伊東


時計は
12時を回った。

出発は1時が最終ラインだ。
俺たちは
静かに待っていた。





お二人は
庭に出てきた。


瑞月さんが
大事に胸にもつ白い何かに包んだものは
きっと
あれなんだ。


総帥は償っておられた。


ちらりとテーブルに見えたピンクが
思い浮かぶ。






さくらは
今日も
花びらを風に乗せている。


美しい。

美しいものだな。




お二人が
木の下に立つ。

瑞月さんが
そっと両の手を差し上げる。




ああ
花びらの渦だ。


包まれていたピンクが
お二人を包み返す。







さくらさんが
お礼を言ってるのか。

ゴミじゃない。
ゴミじゃないな。





「出発なさる。
   行くぞ。」

俺たちは活気づく。





お二人は
花びら散る庭に
別れを惜しんでおられる。


俺は
そのお二人のお姿を惜しんでいる。
見詰めていたい。
このままに置いて差し上げたい。


総帥はなぜ気付かれたのか。
答えは見える。

だが、
それは、
考えなくていいことだ。


今は
ただ守りたい。
お二人の純な思いを。

それだけだ。


イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。



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