この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







☆海斗



天窓から
陽光が降り注ぐ。

夜の内に散った花びらが
青空を背景に
光を吸い込んで点々とガラス越しに見える。




眩しい朝だ。
二人、
歩き出しての二日目は、
光溢れるベッドに始まった。



……可愛い。
頬に花びらを張りつかせたお前は、
頑是ない幼子のようだ。



小鳥の囀りが
洋館を囲む。
お前を起こしたいようだぞ?



ねぼすけは変わらない。
小さな寝息
そっと俺の胸にある腕。



その腕に
今は
胸がときめく。





姿が見えないと
泣いて名前を呼ばれた朝が
ふと浮かぶ。


生かす
生かす
生かしてやる



夜半にふと目覚めては
お前の息遣いを
息を詰めて窺ったあの頃


胸にある腕は
お前の命綱のようだった。
切なくて
愛しくて
俺はどうしていいか分からなかった。






お前は
俺を愛してあげるという。

可愛い
可愛い
なんて可愛いんだろう。





〝大好き
 海斗〟

愛された余韻を纏い
お前は
俺にキスをした。

そのまま胸に伏せれば
もう寝息は甘く
身仕舞いをしてやろうにも
お前は
あまりに幸せそうで
俺は
あまりに幸せで
花の香りが優しくて……。




頬の花びらを
そのまま
あしらっておきたい躊躇いが
俺の指を
止める。


起こしてしまうのが惜しい。
だが
身仕舞いはしてやらねば。




俺を守っているらしい腕を
そっと外し
ベッドを抜け出す。


用意した湯は
とっくに水になっている。






☆瑞月



ピイー

チュンチュン

………



小鳥さん
おはようしてる………。



目を開けてみた。




あれ?
海斗いない。

ぼく、
ちゃんと
抱っこしてたのに…。




まだシーツあったかい。
どうしたんだろ。




起きてみた。

あ………。

ぼくの中、
まだ海斗がいた……。



じっとする。
じっとしてても
流れ落ちる。




ドキドキする
ドキドキする
ぼく
ほんとに海斗でいっぱいだった………。






ピイー

チュンチュン


小鳥さんが呼んでる。


もう
いいかな
もう
動いてもいいかな




ぼく
そっとベッドから
出てみた。

うん
落ちてこない。




ぼく
窓を開けた。


小鳥さんが
窓枠にピョンととまる。




海斗知らない?

小鳥さんが首を傾げる。
知らないんだって。





お部屋に
さくらがいっぱい散ってる。
シーツも
お布団も
花びらで綺麗。



ぼく、
お花の中で抱かれた。
ゆらゆら揺らされて
お空にのぼった。


ふんわりする。
すごく素敵だった。



うん
ぼく、
海斗を愛してるんだから。
ぼくが海斗を愛してあげるんだから。

だから
だから……だいじょうぶ。




小鳥さんは
何回も首を傾げてみせる。







☆海斗


ドアを開けると
窓辺にお前は立っていた。
パタパタ
という音。


お前は
窓から身を乗り出して
空を見上げる。



「あぶないぞ」

小鳥でも見ていたんだろうか。
白い磁器製の洗面器に
湯を注ぐ。



起きていた。
じゃあ……。

シーツに目をやる。
布団を被せてあるな。





「海斗、
 おはよう!」

声は明るい。
だいじょうぶか。




タオルを手に
お前を呼ぶ。


「おはよう。
 横におなり。

 きれいにしよう。
 拭いてやる。」




ちょっと目が泳ぐ。

「シャワーでいいよ。
 一緒に浴びようよ。」



そうもいかない。

「見てやりたいんだ。
 さあ
 ベッドに戻って」





ちょっと小首を傾げる。
伏せた眸が
色を濃くする。


「……うん」






腕に小さな頭を乗せて
腹這いになるお前は
固くなっている。


双丘を押し広げると
肩のあたりまで
キュッとすぼまるようだ。




明るいからな。
いつもなら夢うつつのうちに
済ませてやっていることだ。






そっと開いて
拭き清める。

だいじょうぶ。
傷ついていない。




「さあ
 終わりだ。
 仰向きになって」


ごそごそと
お前は上を向く。




「あのね……流れちゃった。」

小さな声でお前は告白する。



「洗濯する。
 構わない。」

何でもないことだ。
俺はさらりと応える。




「うん」


起き上がり抱きつくのは
顔を隠したいからだ。
少し待とう。





「流れちゃうのって
 悲しい?」

恋人は尋ねる。
そんなことを考えるように
なったのか。




「そうだな。
 また愛してやりたくなる。
 何回でも一つになりたくなるように
 できているんだろう。」

別々の体。
別々の心。
お前が気づけば俺も気づく。




「あのね、
 ちゃんとぼくの中に
 貯まってるよ。」


ふふっ
勾玉があってよかった。
お前には
俺の情はリアルにわかる。

お腹が空くんだよな。
お前には
リアルな感覚だ。




「わかってる。
 さあ
 食事にしよう。」



このまま抱いて降りていきたい。
だが、
抑えよう。


「服は下の部屋だ。

 お前の部屋でもある。
 一人で考えたいときは
 部屋で考えられるぞ。」



首に回された手に
力がこもる。

「大好き
 海斗

 待っててね
 すぐ行くからね」


小鳥が
腕から飛び立つのを見るようだ。

お前は
ひらりと
ドアを抜けてゆく。



慕わしい。
すぐに会えるのに
慕わしい。



小鳥の囀りが
空に聞こえる。




一人残された屋根裏部屋を
見回す。


見事に散り敷いたものだ。
この花びらをなんとかしないと。


何でも一緒にやっていこう。
まだ見せたくないものはあるが、
何とかなる。

情の跡が残るシーツを手早く外し、
俺は居間へと降りていった。

まずは食事からだ。



画像はお借りしました。
ありがとうございます。


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