この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






夢の中を歩く。

花という花が咲き乱れていた。



木々に

歩む道の端に

その先に広がる野に

花は降り注ぎ
花は地を彩る。





まんさくの花だ。
まず咲く花が
春を告げる。





んっ……あ…………



春を奏する爪弾きに
花たちの目覚めは始まる。





ひらめく白は
雪の肌。
つま弾くほどに仄かに薄紅に匂い立つ。





香る
花は香る
春香る花に枝は甘く揺れる。





海斗………。





あえかに香り
誘いかける。
届く声には情がこもる。




来て……

来て……

ここにいるよ……

ここにいる……………………





白い白い花身に朱は浮かぶ。
俺が刻む朱に彩られ
花びらは震える




この花は
どこまで咲き誇るのだろう。

共に辿る道筋にある美に
花回廊は夢幻の道となる。





ああっ……

ああっ…………





夢の中に
爪弾く琴は
絶え間なくその音を響かせる




空にあった一弦の琴よ
その音色を与えられ
花茎は
優美な弧を描く。




お願い……

お願い……………




小高い丘が見える。
花たちが溶暗に沈む。



そこにあるのは一本の桜だ。




散りしきる

散りしきる




俺の頬に触れる白い白い指先。
その指先から
ほろほろと花びらは零れる。







その身を満開のさくらに変えて
腕の中にあるものよ。




見上げる月の光に
花はしとどに濡れていく




光に濡れながら
間断なく散らす花びらは
俺の肌に
俺の心に溶けていく。


水面に落ちては消えていく
儚い雪片のように
その花びらは
俺の中に滑り入る。






琴は
最後の一音を鳴らす。




あまりに愛しくて
その一音が
切ない




俺を欲しいと
俺を思うという花よ




腕にその細腰を抱き
見上げる月に
見果てぬ夢を
俺は
見ている。




愛している

愛している

愛している





お前と共に歩む明日を
花回廊の先に
俺は
見詰める。





イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。



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