この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





はらはらと
舞い落ちる花びらは
洋館の奥庭にある。

舞い上がり
洋館の主を恋うて
ひらひらと窓を抜けてきたのだろうか。




「あ……、
   さくらだよ。

   可愛い。」


ひっそりと
枕に待っていた仄かなピンクを
お前はそっと摘まみとる。





「水に浮かべればいい。」

俺は応える。





白木蓮の艶やかな白は
水に映り
水の光を受け

優美な曲線に
麗人の横たわる姿を思わせる。



お前が添えた小さなピンクは
その簪のように白に纏わる。





バスローブのまま
お前はベッドに乗るや
立ち上がる。


「あん!」

差し伸べる手は
天窓に
届かない。




天窓の縁には
ピンクの花びらが
吹き寄せられていた。





うんしょ

伸び上がり
ぐらりと揺れたところを
後ろから支える。




「花びらが散っては
 掃除するのも大変だ。
 やめておけ。」


「ちょっとだけ
 ね
 ちゃんと拾うから。」




背中から言い聞かせれば
振り仰いで
俺に交渉する。





返そうとすると
目が潤む。


「一人じゃ寂しいでしょ。」





さっきの花びらか。





見上げれば
雲一つない夜空が切り取られ
そこを月が渡っていく。
今夜は暈を置いてきたようだ。





「お月さまが
 笑っているぞ。」


そう
耳に囁き
俺は腕を伸ばす。





カタリ

天窓を押し上げる。

ああ、
花の香りだ。




夜風は
心地よくお前の髪を揺らし
花びらはほろほろと
屋根から零れ落ちる。





「海斗、
 抱っこして」




抱き上げてやれば、
お前は
嬉々として
吹き寄せられたピンクに
両の手を伸ばすのだ。





もう少しというとき、
その小さな吹き溜まりは
ピンクの渦となった。





舞い上がり
天窓に遮られ
花の雨となって舞い落ちる。





「うわー
 すごーい。」


「明日は
 起きたら掃除だぞ。」




そう
言いながら
俺も酔う。

花びらに酔い
お前に酔う。





お前はその小さな手のひらに
花びらを受けようと
一生懸命だ。





抱き下ろすと
手に受けた数枚を
そっと器に浮かべている。




天窓を閉じる。

うっとり眺めているお前の横に
俺も座る。






もう灯りを落としてもいいだろう。

盆には
ガラス鉢に添えて
マッチがある。
居間に用意されていた。

ミュシャ……。
伊東じゃないな。





花と水の鉢に灯りを点す。





ああ、

小さく上がった嘆声は
照明を落とすと
声も出ないため息に変わった。





麗人よ
仄かな
紅のベールを纏い
艶かしく横たわるものよ





「さあ、
 綺麗になる時間だ。」


お前が息を呑むその美は
これからお前が魅せるそれには
及ばない。





花を見詰めるお前の肩から
ローブを滑らせる。


見詰めたまま
その唇は
最初の喘ぎを洩らす。






甘美な時よ


美は
ここにある。
愛しいものよ
お前こそ
俺の慕ってやまない美そのものだ。







イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。




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