この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。









感じやすいお前は
導くままについてくる。


可愛くてならない。





「海斗……?」

声は甘く
頼りなく問いかける。



もう
お前を
捕まえた。



「シャワー、
   好きだろ?」


「……うん。」



ああ、
撫でる髪が
サラサラと指に心地いい。



「片付ける。
   一緒にやろう。
   運んでおいで。」

声に緩急は大切だ。
ここは安全だ。
まだだいじょうぶ。


その安心に微笑み、
お前は
また
元気づく。



「ぼく、
   今日は洗う方やりたい。」

声が弾む。
可愛いよ。
愛しくてたまらない。


お前は
暮らし方の勉強が
楽しくてならないようだ。


花柄のエプロンと
黒の帆布製のエプロンが
キッチンに掛けられている。



それを着けると
また一段と可愛い。

「海斗、
   すごく格好いい。
   プロのお店の人みたい。」



瑞月に褒められるのは
いい気分だ。

格好いい……か。
女たちに言われても
少しも意識しなかった。


〝総帥は
   女性の目を惹き付けるんですから〟

そう言えば
伊東も
この頃うるさいな。


…………気を付けよう。



お湯の温度を調整し、
スポンジを持たせて洗剤を含ませてやる。


神妙に
俺の準備を待って
瑞月は洗い出した。


キュッ
キュッ

深皿をスポンジで擦っていく。


まあ順調だ。

「よし!
   次は、
   すすいで、
   水切りカゴに入れる。」



ガチャーン…………。

「キャッ
   ごめんなさい!」






慌てて
割れた皿を拾おうとする瑞月を遮り、
飛散した破片を
確かめる。


「動くなよ。」


手早く破片を拾い集め、
掃除機を持ってきた。



言われたままにちょこんと立っている
花柄エプロンのお前。
俺を見て
うふふっと笑う。


「海斗が掃除機って、
   なんだか変な気分。

   すごく久しぶり。」



変……。
変なのか。

まあ、
掃除機はお前の担当だ。



「細かい破片は
   吸わせてしまう。
   かけておいてくれ。」


スイッチを入れ
モードをフローリングに合わせ
持たせてやる。


「ぼくの周りだけ?」

「飛び散ったからな。
   足元から始めて流しの周りは
   かけるんだ。」


ブーン
ブーン

興ありげだ。


掃除機で怪我はしないだろう。
片付けを急ごう。
拾った破片を始末し、
残りの皿をすすぐ。



「あ、
   ごめんね。

   やってもらっちゃった。」


足周りを済ませ
パタパタとふかふかのスリッパで
キッチンの中を
掃除機を押しながら
お前は回る。



キッチン用のスリッパが
新しくなっていた。



プーさんスリッパか。
瑞月のは
これでいいだろう。


俺のプルートは……
伊東か?
この間は落ち着いた茶だった。


病院グッズを
ディズニーで揃えたからか?
俺の趣味じゃないんだ。
元のに戻させよう。




「構わない。
   そっちもそのくらいでいいだろう。

   貸してごらん。」

「片付けるよ、ぼく。
   えっと
   …………スイッチ切れないよ。」



「ここだ。」


出した手が
お前の手を握る。


意識したわけじゃないが、
口で言うより早い。
そして、
お前はまた黙りこむ。


「どうした?」

だから、
俺は訊くんだ。

訊くしかないから
訊く。


「だって…………。」

そして、
お前は真っ赤な花になる。




いつも狙ってるわけじゃない。
そういうわけじゃないが
流れは大事だ。



「片付いた。
  シャワーにしよう。」




イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。



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