この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




あつあつのシチュー。
牛さん
玉ねぎ
ジャガイモ
トマト
……とか入ってる。




ぼくたち、
食べるときは静かだよ。
ぼくが何でも食べるようになって
海斗が静かになったから。



えっと

〝食べろ〟

〝口を開けろ〟

〝一口食べる約束だろ〟

〝隠しても分かるからな〟

〝お仕置きしてほしいのか〟

〝食べるまで立たせないからな〟

とか
ずっと見張ってたもの。



今はね
静かなの。
ぼくの方が喋るかも。


シチューのお肉が
ほろほろって
フォークで切れる。

「これ、
 お肉やわらかい。」

嬉しくて
海斗の顔を見ちゃう。

喜んでるかなって
見ちゃうんだ。


テーブルが大きくて
向かい合うと
海斗の手が届かないから
ぼくたち並んで食べてるの。

見上げると
海斗の顔が見えるよ。



「そうか」

ちょっと笑った。
うん!
やっぱり笑った。


フォークで持ち上げると
お汁がついてくる。

大きく口を開けて
ぱくん
て食べる。

大きく開けたんだけど
汁が垂れてあごについちゃった。




すっと海斗の手が伸びてきて
指であごを拭ってくれる。

もごもごしながら
「ありがと」
って
言う。


そしたら、
その指を嘗めるんだよ。




ぼくね、
そうされると
静かになっちゃう。

海斗の指
海斗の指って
思っちゃうんだ。



「どうした?」
って
海斗が訊く。

いつも
〝どうした〟
って言うんだ。




「わかってるくせに」

小さな声で言ってみた。


だって
何回もするんだよ。
ぼくがドキドキするの
面白がってる。




「悪かった。
 ちゃんと拭いてやる。」

海斗が
あごに指をかけて
仰向かせる。


まともに見下ろされて
ぼく、
心臓が跳び跳ねる。


お手拭きで
あごの下から
すーって拭きあげる。


一回
二回


それからあごを横に
つーーーっ

なぞる。


「綺麗になった。」

にこっ
て笑う。



笑ってる。
笑ってる。

だから
なんだかほっとして訊いちゃう。


「…ほんと?」


「世界一綺麗だ。」

うふふっ
嬉しい!



ぼく、
また喋り始める。




お腹一杯になった。

「リンゴ、
 剥いてみるか?」


海斗が
キッチンから
リンゴと小さなナイフとお皿を
持ってきた。



「うん!」

やってみたい。
だって
だって
また海斗が熱出すかもしれないもの。


まず、
リンゴを4つに切った。
海斗が後ろから手を添えてくれる。


ちゃんと
リンゴを押さえてれば
まっすぐ切れるってわかった。




次は皮剥きって
ぼく、
張り切った。


でも、
でも、
なんか
皮剥きになったら集中できない。







海斗が後ろに立つ。
両側から海斗の腕がぼくを包む。
ぼくの手に
海斗の手がかぶさる。


「リンゴを
 左手で
 しっかりもつんだ。」

持つんだけど
震えちゃう。



「ナイフを動かすんじゃない。
 リンゴを押すつもりで
 やってごらん。」


目の前にナイフがあって
海斗の手があって
ぼくは
バクバクする。


シャリシャリッ

シャリシャリッ

リンゴは裸になっていく。



ぼくの背中に
海斗のお腹がぴったりついてる。
触れて
こすれて
ぼくは感じる。


「どうした?」

またなの。
また〝どうした〟なの。



リンゴが落ちる。
テーブルに落ちる。


ぼく、
裸になったリンゴを
口に入れられる。


「かじってごらん。」

シャリッ

かじる。




「美味しい?
 瑞月」

海斗の指が
ぼくの口を開けさせる。


シャリッ

シャリッ



ぼくはリンゴをかじる。


「…うん」



そっと
頭が撫でられる。

「今日はシャワーにしないか?
 一緒に流せる。」

撫でながら
言われる。


「……うん。」


ぼく、
海斗の〝どうした〟を聞くと
ふわふわする。



ふわふわして

こわくて

こわくて

どきどきするんだ。



イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。




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