この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






「ぼく……感じたんだ。」

その唇をそっとふさぐ。

「熱くなった。」

涙を唇に吸う。



髪を撫で、
頬を手で包み、
俺は瑞月を確かめる。




呼吸する。
唇がわななく。
まぶたが震える。
頬に涙が流れ落ちる。


生きている。


抱き締めたまま
しばらく口がきけなかった。




「暗くなって
 さくらが見えたの。」

小さな囁きに
息が胸にかかる。

「体が動かなくて
 こわくて
 それなのに熱くなった。」


知っている。
瑞月、
知っている。

この腕の中でもがくお前を
俺は抱き締めた。

「海斗が見えて………
 ぼく、
 わかった。

 ぼくじゃないってわかった。
 でもね、
 熱くなったんだ。

 ……熱くなったのは……ぼくだ。」




お前が堕ちた地獄が
まざまざと浮かぶ。

逃げようと暴れるお前を抱いたまま
俺はただ考えていた。
怪我をさせない
それだけを考えようと頭を空にした。

武藤が
高遠が
咲さんが見詰めていた。

悲鳴に喉は掠れ
お前は崩れ落ちた。

そのときから
分かっていた。
覚悟していた。



勾玉の記憶は封印できない。
頭で知るのと
体で思い出すのは違う。



「その子は
 怖かったんだ。
 体を馴らされ、
 熱くなるように体は変えられても
 怖かった。」


腕の中のお前が震えている。
共鳴しろ。
瑞月、
共鳴してやれ。


「逃げようとしたはずだ。
 逃げても逃げてもつかまって
 また体を責められて
 心を閉じた。」

ふっ

目が閉じられる。
そう
心を閉ざせ。
固く固く閉ざすんだ。


「長に出会った。
 水辺だったそうだ。」

ぐらり

瑞月の体が揺れる。

「その熱はちがうんだ。
 どんなに馴らしても馴らされないものが
 ある。

 思い出すんだ。」


封印できない。
それなら、
越えるだけだ。




瑞月を残し
俺はベッドを離れた。
灯りを落としていく。

トランス状態の瑞月が
悲鳴を上げる。
闇は
体をまさぐる手に繋がる。

最後の灯りが落ちて真の闇が辺りを包んだ。


イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。



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