この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。









海斗が上がってきた。
格好いい黒。
海斗は黒がすごく似合うんだ。

トムさんが
お辞儀して下りていこうとする。


「トムさん……。」
ぼく、
思わず呼んじゃった。


「下で見ている。
 すごく可愛いよ。
 皆さんに笑顔を見てもらうんだ。」

トムさんが
そっと応えてくれる。


トムさんが下りていく。
たけちゃんの手が離れる。
ぼくは海斗に肩を抱かれた。


ぼくの肩を抱いたまま、
海斗はお辞儀する。
ぼくもお辞儀する。

たけちゃん拍手してる。
おじいちゃんも、
咲お母さんも、
拓也さんも、
拍手してる。


お客さんが
みんな拍手してくれてる。


ドキドキするよ。
ここ音響効果すごい。
拍手に抱かれてるみたい。


顔を上げても
みんな拍手してる。
女の人、
泣いてる人いる。


海斗がそっと
ぼくをたけちゃんに渡す。

「さあ、
 海斗さんの挨拶だよ。
 下がろう。」

たけちゃんが囁いて、
ぼくらは一歩下がる。

海斗は、
マイクの前に立った。
海斗の肩が広く見える。
ぼく、
………守られてる。



あ、笑った。
海斗が笑顔になった。
わかる。
わかるよ。


「皆様、
 本日は、
 ありがとうございます。

 鷲羽財団代表 鷲羽海斗でございます。

   すっかり父に語られてしまいました。

 私も老人も
 家族を得ることができました。
 こうして鷲羽海斗を名乗り、
 家長として家族に囲まれる今を
 本当に幸せに思います。」


海斗が振り向く。
ぼくらを見詰める。
そして、
ぼくを見詰める。

にっこりする海斗に
ぼくもにっこりする。


海斗が
また会場に体を向けた。

会場の皆さんが
海斗を見詰める。

「私は、
   さきほどの祭儀で引き受けた務めを
 今噛み締めています。

 鷲羽の向かう先を
 示していく務めです。

 私は5年前に失った人がいます。
 その人は、
 私に大切なものを残してくれました。

 人に繋がること
 人を思うことです。

 それがあって、
 今、
 ここに
 家族とともに立つことが
 できています。

 繋ぐ力を鷲羽の根幹に置きたい。
 そう考えます。

 時代は、
 人工知能の発展に
 産業革命の流れの中にあります。


 その流れの中に
 受け継ぎ、
 光を当てて、
 次の世代へと繋げていくものを
 鷲羽は考えます。

 
 今日、
 わたしは、
 東北大震災被災地からの物産展に
 参りました。

 出品いただいたものに感じたのは、
 〝その土地に生きようとする姿勢〟
 〝その土地を生かした産物にこだわる姿勢〟
 この二つです。
 
 
 土地に生きるとは、
 その土地の自然を愛し
 共に生きる姿勢です。



 時代のうねりは、
 ときに大切なものを見失わせます。

 人工知能は人の雇用を圧迫し、
 そこに無益な争いをもたらす可能性を
 秘めています。

 その発展と浸透に合わせて
 人の働く場の確保と
 そのための教育の充実が必要です。

 その一つ一つに
 自然との共生や土地への思いを
 添わせていくこと。

 これからの鷲羽の使命は、
 そのバランスの追求と考えます。

 時代が変われど、
 繋がれ残されていくべきものが
 確かにあります。

 
 人を繋ぎ、
 人と土地を繋ぐ。

 共生の理念をもって
 鷲羽の船出とさせていただきます。


 どうか、
 皆様のお力をお貸しいただき、
 新生鷲羽の発展にご支援を賜りますこと、
 お願い申し上げます。」



海斗が話し終えた。
わーっ

声がしてぐらぐらした。
すごい拍手だよ。

海斗が頭を下げる。
ぼくも
あわてて頭を下げる。
ぼくたち家族みんなが頭を下げた。


なんだか嬉しくて
涙が出てきちゃう。

海斗は
みんなにすごい人気だ。
みんなが海斗を好きみたい。

嬉しい嬉しいな。




ぼく、
大きな声で言っちゃった。

「ありがとうございます」

おじいちゃんも声を張り上げる。

「ありがとうのう」



手を振ると、
皆がにこにこする。


「皆様、
   温かなエールを
   ありがとうございます。
 
   では、
   新生鷲羽の船出を祝って
   乾杯に移らせていただきます。

   発声は、  
   前代表 鷲羽顕雅が務めます。
   皆様、
   どうぞお手元のグラスを
   お持ちください。」


ホテルの人たちが
ステージに上がってきた。



たけちゃんとぼくにも
グラスが渡される。
オレンジジュースみたい。


おじいちゃんが
また
マイクの前に立った。

シャン!

背筋を伸ばしてる。


「では、
   皆様、
   新生鷲羽の船出と
   皆様の御多幸を祈りまして

   乾杯!!

おじいちゃん、
すごく元気な声で言った。


かんぱーい!!


皆がグラスを挙げてる。
皆が大きな声を張り上げる。

乾杯って
すごく楽しそう。


海斗が
一気に飲み干した。

また、
みんなが拍手して
ぼくたちはにこにこした。


今度のパーティーは、
なんだか楽しい。
海斗もおじいちゃんも
そばにいてくれる。


ぼく、
なんだか幸せみたい。




画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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