この小説は純粋な創作です。
実在の人物、団体に関係はありません。







⭐高遠豪

中央モニターが切り替わる。
「始めよう。」
海斗さんが
開始を宣言し、
トムさんは伸ばした背筋に
もう一本見えない柱を立てた。


警護のミーティングが始まる。


瑞月は
奥の部屋だ。
ここには〝守り人〟だけだ。

〝天宮補佐が来る。〟
海斗さんから
トムさんに連絡が入り、
咲さんがいそいそと現れたのが、
ついさっきだ。




そのとき
言われたんだ。
〝ここには、
   頼もしい守り人ばかり。

   咲は
 信じてお任せするだけです。
 瑞月の命、
 託しましたよ。〟


咲さんは部屋に入り、
海斗さんが出てきた。


まだ午後三時だ。
もう衣装になるんだろうか。
ちょっと早過ぎだ。
窮屈だろうに………。


〝身を清めるそうだ。
 咲さんに任せよう。〟

察したように
海人さんは言った。

背中に
トムさんのほっとしたようなため息が
聞こえる。
同じ気持ちなんだ。
なんだかほっとする。




会議室となるテーブルに
海斗さんが座る。
トムさんに促され、
俺たち二人は離れて座った。

〝会議の席は
   指揮系統を示すんだ。
  俺たちはぺーぺーだからな。〟

トムさんが囁く。
気を遣ってくれてる。

ありがとう。
これは、
大人の会議だ。
弁えてなきゃ。
改めて思った。




で、
今だ。

現在の状況について
各班の班長から次々と報告が続く。
トムさんも報告だ。

「瑞月さんは、
   奥の部屋で休息を取っています。
   天宮補佐がご一緒です。」

一通り済んで、
伊東さんが口を開く。

「みんな、
   ご苦労。
   今のところ予定通りだ。

   総帥、
   何かありますか?」

「いや、
   続けろ。」

さあ、
ここからだ。
なんだか緊張してくる。



「流れの確認をします。
 まず、
 ………………」
あ、
樫山さんだ。
伊東チーフの脇で樫山さんが話し出した。


よどみなく流れていく
時の流れの一つ一つが
人の力に支えられているのがわかる。


ここに集まる警護の皆さんだけじゃないんだよな。
イベント
厨房
受付
案内
………それぞれにスタッフがいるんだ。



人に動いてもらうって
有り難いことだ。
みんなが一つの目的で動くって
凄いことだ。

そして、
動く仲間に入れていただくって
当たり前じゃない。
自分が何をできるか
ちゃんと考えなくちゃいけないんだ。


瑞月に言い聞かせたことを
俺は
ほんとには分かってなかった。

トムさんは、
静かな集中に引き締まった顔をしている。

俺には
この会議から自分の動くべきことを的確に掴むほどの
積み重ねがない。
それでも、
精一杯を考えて頑張るんだ。

誰でもできることがある。
頑張ることだ。






⭐瑞月

海斗が、
最後にキスしてくれた。
大事な会議なんだって。


咲さんが来て
僕もお支度だって言われた。


お支度……なんだかドキドキする。


今日は、
なんだか特別なんだよ。
さっき食べたお昼もね、
なんだか不思議なご飯だった。

葉っぱにね。
お味噌が乗ってた。
ちょっと焦げてるの。

ご飯が色んな色のご飯だった。

葉っぱのお皿が幾つもあってね、
お野菜とか
チーズとか乗ってるの。
酸っぱくて
ちょっとうぇってなった。

海斗が
そっと肩を抱いてくれて
言われたの。

〝一口ずつでいい。
 全部食べるんだ。
 大事なことだそうだ。〟

そうだ??
えっと
何かのシキタリっていうのかな。


あんまりたくさん食べなくていいんだって。
えっと、
不思議なんだけど、
お腹は満足したのかな。
なんだかポカポカしたよ。



そして、
ご飯が終わったら、
海斗は前のお部屋に行っちゃった。




「瑞月、
 お風呂にしますよ。
 瑞月はお祈りをするんだから、
 綺麗にならなくちゃなりません。」

咲さんは、
綺麗な布をかけた何かを持ってた。

布を外して
見せてくれる。
ふっくら下がまあるい真っ白な壺。

何が入ってるの?





⭐天宮咲

この子は
ほんとうに神様からの預かりものなんだ。

あらためて
そう思いました。




素直に衣服を脱いでいくあなたは、
自分の姿を知らない。

知らないからこその無垢かもしれません。

いえ、
総帥に見えている自分は
学びましたね。
そう
世界一綺麗よ。


あなたたちときたら、
お互いがお互い以外の人間にどう見えているかなんて
まるで気づかないんですから
驚きます。



さあ、
大切な日です。
今日舞うなら、
あなたは
海斗さんのものになる。

ほら、
もう勾玉は
分かっている。
ちろちろと
嬉しそうに翠の炎を見せています。




でも、
その前に
確かめます。
有子さんも
わたしも
あなたの本意でないことは
決してしたくないんだから。




服を脱がせ、
湯船に入れて、
私は問い掛けます。

「瑞月、
 総帥が好き?」

「うん!」

縁に両手をかけ、
ぱちゃぱちゃしながら
あなたは
明るく答えます。

そう
当たり前ですね。

「あなたが舞う舞いは、
 短いものだそうよ。
 舞いはだいじょうぶでしょ?
 勾玉が教えてくれるのよね。」


「うん!
 なんだか体から湧いてくるみたいに
 動いちゃう。
 気持ちいい。」

仔猫が伸びをします。
まあ
ほんとに気持ちよさそう。




気持ちいい……。
あなたは勾玉に翻弄されることなく、
見事に響き合っている。

強い子です。
柳のしなやかさに
悲しい魂までも包み込みましたね。



さあ、
本題です。

「舞うことはだいじょうぶ。
 ただね、
 これは契りの舞いなんだそうです。
 総帥には言ってないことがあるの。」

私は
瑞月に言葉が伝わるのを
待ちました。

「内緒なの?」

「そうよ。
 内緒にね。」

「なあぜ?」

あなたは、
本当に不思議そう。
ぱちゃぱちゃが止まり、
じっと
私を見詰めます。




「御前が仰有いました。
 あなたは総帥の中に入ってしまうと。

 何が見えるかわかりません。
 ただ、
 深く深く繋がり、
 月は太陽の芯に身を浸すそうです。

 怖いことです。
 総帥が許すとは思えません。」



小首を傾げ
あなたは考えます。

「海斗の中なの?」


「そうよ。」

花が咲きました。
総帥、
本望でしょう。

なんと見事な花であることか。




「嬉しい!
 僕、海斗の中に溶けちゃいたいって
 何回も思ったの。
 できるんだー。」

あなたは
無邪気に喜びます。


でも、
それは、
喜びや悦びだけでは
すみません。


「総帥は苦しい過去を
 お持ちよ。

 おっしゃらないけど、
 見ていれば分かります。

 心の底には
 その苦しみがあるでしょう。
 あなたには知られたくないかもしれません。
 苦しめてしまうから。」



ああ、
こんな日になり、
もう
これは決まったことなのに、
やはり
私は確かめてしまいます。

そして、
予想通りのあなたが
微笑んでいる。


「僕、
 海斗が苦しいなら
 一緒に苦しみたい。

 契りって、
 約束でしょ?

 あのね、
 誓いのキスしてきたんだよ。
 海斗がベール持ってきたの。」

輝く眸に
その誓いの喜びが伝わります。





分かっていましたよ。
あなたは強い子なんです。

月は太陽の芯に浸り
そして、
その腕に太陽を抱くでしょう。

愛している
愛している
あなたは愛しているのね。

あなたは
総帥のものです。

それを
あなたは選びました。


私は
湯に神酒を注ぎました。
清めの儀をしましょうね。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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