この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






ぴたり!

動かなくなった
物産展スタッフの環視する列の向こうに、
長身の影が
動きを止めていた。

その影から
痛いほどの注視を感じる。
俺は見返す余裕がないです。
すみません。


「ここは、
   皆のリンクだ。
   今は本番。

   ね?
   天宮君。」

瑞月に全神経を注いだ。

瑞月の
真ん丸お目めを覗きこむ。
あっ‥‥

瑞月の眸が揺れ、
落ち着いた。



「あ‥‥ごめんなさい。
   佐賀‥‥
   鷲羽さん!
   お待たせしました!」

明瞭な声だ。


両手でお皿を
ちゃん!

捧げ持ち、
頬を染めながら、
瑞月は挨拶する。




「急ぐよ。」

小さな丸い肩を抱き、
渡ってみれば、
ほんの数歩、
海斗さんまでは数メートル。




「ありがとうござんした!」

マサさんの渋い挨拶に
楽屋裏は
また
一斉に動き出した。


衝立に仕切られた向こうに
瑞月は滑り込む。


カタリ
衝立は閉じる。
海斗さんの腕の中に
瑞月はいた。


思わず息を吐いた。
やけにでかい溜め息になったと思ったら、
トムさんとかぶっていた。



「よくできたな。
 瑞月ちゃん。」

マサさんが声をかける。



そっと
海斗さんの腕を抜け、
瑞月は尋ねる。


小さな小さなプライベート空間で、
瑞月は一心に見詰める。

俺たちを、
順番にだ。

「僕‥‥‥‥御迷惑になった?」


全員首を横に振る。


「でも、
 僕‥‥浮かれてたよね。」



トムさんは俺を押し出す。
マサさんは微笑む。



俺は海斗さんを見詰めた。
瑞月が俺の視線を追い、
海斗さんを見付ける。


もう一度、
瑞月は
海斗さんの前に立つ。


上気した頬が
さらに赤みを帯び、
眸はキラキラ輝いている。

「海斗、
 僕、
 ちゃんと知りたい。

 だから待ってて。
 待っててね。」


海斗さんの手が、
そっと瑞月の頬に触れる。

瑞月が
慌てたように
紙皿を持ち上げる。

瑞月、
ドキドキしたんだね。

「あ、
   これ、
   海斗に食べてほしくて、
   買ってもらったの。」


テーブルに置く。

くりんと振り返る。




「お願いします!」

可愛い頭が
90度に下げられた。


よし!
お前は
〝リンク〟に反応してる。
真剣勝負だ。

俺はお前に伝えたい。
きっと
トムさんも伝えたい。
俺たちにできる精一杯でお前を支えたいからだ。




俺は瑞月に尋ねる。


「瑞月、
 今日は、
 どんな気持ちで舞ったの?」

ちょっと目を伏せ、
瑞月は考える。

さあ、
目を上げて。
俺の祈りに応えるように
ぱっちりと見開いた眸が俺を見詰める。

「良いことが続きますように。
 幸せが来ますように。
 って
 心で唱えながら舞ったよ。」

ゆっくりと
瑞月は応えた。


俺は微笑む。
賞賛を込めて
敬意を込めて微笑んだ。

「今日するべきことは、
 まさにそれだよ。

   ほんとに、
   素晴らしかった。
   神様が皆を祝福してるって
   心から感じられた。



   浮かれてたんじゃない。
   一生懸命だったんだ。
   頑張ることは、
   楽しいことなんだよ。
   頑張ったご褒美は、
   自分も皆も楽しくなることなんだから。

 みんなの笑顔を見たよね。
 嬉しかったろ?」


「‥‥‥‥うん。」

声が小さい。
肩のラインがまだ硬い。
よほど驚いたんだと思う。

俺は、
ちらと後悔しかける。

それを感じるけれど、
もう止められない。


腹に力を入れる。
瑞月を守る!
友人として守るんだ!!

「よく頑張った。

 さっき天宮君って呼んだのは、
 今日をしっかり頑張った瑞月への
 俺の思いだ。

   すごかった。
   ありがとう!だ。

 頭を撫でてあげたかったけど、
 それじゃダメなんだ。」


瑞月は、
えっ?!
ってなる。


「僕、
 撫でてほしい。

   いつも
   頑張ったねって
   撫でてくれるでしょ?」


うん!
ただ
そうすれば良かった
って
少し後悔してる。


でも、
たぶん、
もう待てない。


今日のお前は、
光輝いていた。

みんなが
お前を見詰めたがる。
天使は地上に降りちゃったんだ。



「あとでね。
 ちゃんと撫でてあげる。

 でも、
 今は違う。
 ここはリンクだからね。」

「れ、礼儀作法が必要なんだよね。
 だから‥‥‥‥。」

勢い込む瑞月の唇を、
俺は
そっと指で押さえた。


「礼儀作法は、
 瑞月だけが守るんじゃないよ。

   忘れてない?
   自分も
   ここの皆さんの仲間だって。
   杏さんたちを応援する仲間だって。」


覗き込んだ瑞月の眸が
キラキラって輝いて、
ポロリ

光の粒が目尻から零れ落ちる。

「俺たちが
   リンクで礼を大事にするのは、
   そこに集う仲間や
   支えてくれる皆さんを大事に思うからだ。

 頑張った瑞月への敬意、
 責任を負う海斗さんへの敬意が
 この場所を明るくする。

 瑞月は頑張ったここのみんなの仲間だよ。
  俺は、
  物産展成功のために頑張るリンクで
  お前に対する礼を大事にしたい。
 
   だから、
   天宮君なんだ。」


俺は、
そっと
瑞月の頭を撫でた。

瑞月がしがみついてくる。


何回、
お前を抱いてきただろう。


汚れを知らない天使は
地上に怯え
人を怖がり
教室で
寮で
泣いていた。



今、
お前は、
誰かと頑張って
頑張ることで繋がって
‥‥‥‥泣いている。



「高遠君、
   ありがとう。」

お前の声が
俺の胸に囁きかける。




瑞月、
俺は本気だよ。

頑張る仲間が
お前を支えてくれる。

クラスの仲間だけじゃない。
これから先、
一緒に頑張る人は
皆、
お前の仲間なんだ。




だから、
覚えてくれ。

敬語は冷たいものじゃない。
そこにいる皆を大切にするために
お互いを尊重するために
あるものだ。

そういう敬語がある。

ここは頑張る皆の空間だ。
皆を大切にして、
皆に大切にされておくれ。
イチャイチャ禁止だよ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。

⭐どうかな。
   敬語のエロスも書きたーい。
   コメントにいただいたんす。
   次?
   パーティー?
   どっかで。





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