この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





ここは、
デパート特設会場。
もう人の海だ、海。

総帥と瑞月で煽るだけ煽ったもんなぁ。



いや、
文句を言うんじゃない。
大成功は嬉しいんだ。


最初
ラインナップを聞いて
だいじょうぶか?!

俺は思った。



既に名の通った有名ブランドは、
総帥が解体した大間マグロくらいだった。


ほら、
人はブランドに弱いもんだろ?
もう少し
なんか
呼び込むための商品も
必要じゃないかな
って
思ったんだ。



ブースのリストは
復興したばかり、
これから頑張るぞ!!
の店舗に焦点をあてるコンセプトを
語っていた。


「初めて見る名前ばかりです。」
ぽつんと
洩らした俺の声に

「逸品揃いですよ。」
武藤補佐は、
さらりと返した。


商品に自信あり!
だったんだな。
それは事実だ。
お客様の笑顔を見ればわかる。


杏さんの涙に感動した。
えっと、
〝いいものは、
   自分で喋り出す〟だっけ。


いいものが、
思いの籠ったものが、
この物産展で正当な評価を得たんだ。


喜ばしいよ。
俺は誇らしい。
この物産展を開設した鷲羽の人間であることに
胸を張りたい。


みんなで頑張った甲斐があった。
最高だ。




が、
しかし、
紙皿見詰めてニコニコしてる瑞月を連れ、
この海を渡るのは、
鷲羽警護チーム史に残る高難度な任務だ。



瑞月は
紙皿しか見てない。
乗せているのは、
表面はこんがりいい色に焼けながら
中はふんわりの焼きチーズだ。


開いたお目めは、
輝いてる。
美味しいよ
美味しいよ
って
輝いてる


瑞月を見た客は、
まず
美貌と可愛らしさの共存に目を見張り、
礼儀作法を忘れて
ガン見する。


睨み返してやりたいが、
お陰で僅かにできる間隙を縫って移動できてる。

しかも、
瑞月は全然気にしない。
睨み返し甲斐がないね。
嫉妬深い恋人みたいに思われる。

俺は総帥じゃない。
心は広いつもりだ。




「気を付けて」
高遠が声をかけると
ふっ

足元を見て
目を上げる。


高遠を見上げるんだが、
そんなとき
自分をガン見してる客と目が合うと
ばっ

微笑むんだよ、これが。


そんな
運のいい客は、
男は
「あっ‥‥ど、どうも!」
で、
あかべこみたいにペコペコし、
女は
「まっ、
   可愛いわねぇ」

興奮して手を振り笑いかける。



で、
背後の気配は変わる。
周りを見回してるな。
チーズの売り場を探してると見た。


ほんと、
御駄賃としていただいても
よかったかも。
凄い宣伝効果だ。
杏さんのブースも助かるはずだ。
首には
ふわりと紙衣のスカーフだからな。



さしもの艱難辛苦に満ちた使命も
ようやく
終わりが見えてきた。
舞台裏に繋がるドアが、
見える。


喜望峰に到達したバスコ・ダ・ガマの気持ちが
今の俺には分かる。

よし!
ドアは開かれた。




‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

俺も高遠も立ち尽くした。
瑞月も素直に止まる。


「おお、
   みんな頑張ってるじゃねぇか。」
マサさんが、
嬉しそうに言う。



‥‥‥‥‥‥中もごった返していた。
しかも、
走ってるし。



「瑞月、
   お皿貸して。」

高遠が
取り上げようとする。

「やん!
   自分で持っていきたいんだもん!!」


いや、
頼む!
俺の天使
君にはこの濁流は
越えられない。
高遠に渡してくれ。


そして、


「失礼しますよ
   預かりものをお届けに
   参じました。

マサさんの声が響いた。


ざっ

全てが止まった。


き、気分は
モーゼに従う民衆だ。


濁流は
居並ぶ人のアーチとなり、
俺たちの前に道を示した。



衝立の向こうから
総帥が姿を現した。


「海斗!!」
瑞月が歓声を上げ、
高遠は言った。


「海斗さん、
   天宮君、
   すごく頑張りましたよ。

   な、
   瑞月!」



マサさんが面白そうに
びっくりした瑞月と
思い切り優しい目の高遠を
見比べてる。


ああ、
次の授業が始まった。




画像はお借りしました。
ありがとうございます。




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