この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





会場をぐるりと一巡し、
〝可愛い〟
〝可愛い〟
〝可愛い〟をもらった瑞月が
嬉しそうに戻ってきた。

幟を担いだトムさんが
いつの間にやら
大きな袋を抱えている。

「お食べって、
   たくさんいただいたよ。
   みんなでいただこうよ。」

瑞月が
笑顔で報告する。


なるほど、
袋いっぱいに物産展の御当地グルメが
入ってる。


「瑞月は
   TPOを心得てるよ。
   今のは、
   正月の獅子舞いみたいなもんだろ?
   ブースの前でくるくるっとして、
   にっこり笑うんだ。

   御祝儀が集まるはずさ。」


よっこらせ

トムさんが〝御祝儀〟が詰まった袋を下ろした。


TPO‥‥‥‥か。
瑞月は舞ってるときは
バッチリだ。

ブースの皆さんに
〝よいことが続きますように〟って
回ってくるんだ。

マサさんは、
それだけ言って
紙衣を着せていた。

うん!
瑞月は元気に返事した。
舞いは中から湧いてくるようだ。
迷いは全然感じない。




「杏ちゃんや
   お昼が届いた。
   こりゃ
   お父さんがお作りなすった紙衣に
   いただいたもんだ。」

マサさんが
声をかける。

杏ちゃんは、
赤くなって手を振る。
たぶんトムさんより下かな。
女性に年は聞いちゃいけないよね。


断ろうとする杏ちゃんに、
マサさんは
おっかぶせる。


「年寄りの言うことは、
   聞いてあげるのが
   親切なんだぜ。

   昼飯を調達するのも大変だ。
   手伝いを呼んできた。
   さあ
   お昼にしな。」

前掛けをした若い女の人が
パタパタと
ブースに駆け寄ってくる。
杏ちゃんにお辞儀し、
叔母さんと打ち合わせてる。


見渡すと
どのブースにも一人配置されるようだ。


「すごく美味しそうだよ。

   せっかくいただいたんだから
   食べようよ。」

瑞月は
食べる気満々だ。

どうだろう。
なんだかだで、
12時近くなっている。
そろそろ移動しなくていいのかな。


トムさんが、
インカムで何か話してる。
終わるのを待って
俺は声をかけた。


「トムさん
   海斗さんたちと
   そろそろ合流ですよね。」

トムさんが頷く。

「海斗と合流?!」

ぴょん

瑞月が跳ねる。

「海斗にも食べてもらっていい?」

もう
海斗さんで
ウキウキだ。


杏ちゃんが
少し心細そうだ。



マサさんが笑う。

「杏ちゃん、
   幾つだい?」

「あ、
   22になりました。」

「よく頑張ったな。
   その年で
   こんなに根性のある子は
   珍しいや。」

「あ、ありがとうございます!」


マサさんが、
瑞月の着た紙衣を
そっと両手で捧げ持つ。

「いいもんは、
   自分で喋り出す。
   杏ちゃん、
   あっしは
   この紙衣は〝秋〟だ!
   って
   思ったんだ。

   合ってたかい?」

杏ちゃんが
マサさんを見詰める。
涙が
また零れそうだ。

「はい!
   秋です。」

マサさんは
両手に捧げ持ったまま
静かに言った。

「祈りを籠めて
   作りなすったとわかるよ。

   実りの秋を
   もう一度ってなぁ。

   お父さんの紙には力がある。」

杏ちゃんは
耐えた。
涙は零れず眸に光が宿る。


「お父さんの紙と杏ちゃんの頑張り、
   神様は
   見ていなさる。

   今日は
   いい縁をいただいた。

   ありがとうよ。」



瑞月は
トムさんに
言い含められたようだ。

もう行かなきゃ。


「あ、
   じゃ、
   ちょっと待ってて。

   トムさん、
   僕、
   お隣のチーズ買いたい。
   焼いてるでしょ。
   あれ欲しいの。」

瑞月は
初のおねだりをする。
トムさんについてもらって
お買い物だ。

〝お代はいいよ
   頑張ってお客様を呼んでくれたんだ。
   御駄賃だよ。〟

そんな声が聞こえる。

〝いえ、
   先程もいただきましたから〟

トムさんが応えてる。



瑞月が大切そうに
チーズを紙皿に乗せて
戻ってきた。


「気を付け!」
級長の号令がかかる。

瑞月は皿を持ったまま
ピタリと止まった。

「礼!」
大人クラスの礼は
された。


一つ授業が終わった。
今日の授業は
本物の力だ。
〝いいもんは
   自分で喋り出す〟
そうだね、
マサさん。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。

⭐瑞月のお勉強は次回で





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