この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。








俺を頼り
安心して眠る可愛い子。
その優しい息遣いを聞きながら
寝顔を眺める俺。


愛しさに
胸は満たされ
見詰めるだけで幸せな朝。


そして、
ぽっかりと
瑞月が
目を開ける。


眩しげに
目をしばたき
俺を見上げるお前。





その瞬間を
俺は夢見る。

いや、
夢見てきた。


夢に見る瑞月は
いつも
ただ愛らしい。
瑞月の目覚めを待つ俺は
とっても幸せなんだ。


俺は
瑞月を抱きたいなんて思わない。
いつも夢の中のお前は
俺の腕の中で安心している。

微笑むお前
眠るお前


お前はいつも
ただ
愛らしい。






今は
ちょっと違う。
祈る。
祈ってる。


今や
10時に向けて
時計の針は刻々と時を刻んでいる。



一時間もすれば起きる…………。
当てになるだろうか。

起きなかったら
起きなかったら
起きなかったら…………。


どうしよう。






カチッ
ドアが開いた。


高遠だ。
カップをもってる。
コーヒーのお代わりか。


ああ、
お前は気楽でいいよな。


「トムさん
おはようございます!

なんだ
瑞月、
寝てるんだ。」


すたすたと近寄ってくる。
テーブルにカップを置くと
瑞月の横に膝をついた。


「ほら
瑞月、
起きるよ。」

高遠は
フツーに瑞月を
起こしにかかる。


俺は焦って
高遠の肩を抑える。

「あと30分くらいで起きるから。」




高遠がキョトンとする。


「え?
起こしちゃだめですか?」


えっと……そうだ。
そうだよな。


で、
でも…………。


「すごく
よく寝てる。

可哀想じゃないか?」


俺は
恐る恐る声を潜める。


可愛らしい顔だ。
すべてが小さな象牙細工みたいに
華奢で繊細に出来てる。


さっきまで
総帥といたんだ。


う、浮かぶ。
しなやかに身をくねらせる仄かな影。
し、消耗してるんじゃないかな。


だって総帥だ。
総帥だよ。
身体能力も体力もずば抜けてる。




「平気、
平気。

授業受けて
スケートやって
4年間頑張ってました。

今は
しっかり食べてるし、
だいじょうぶです。

それより、
起きるかどうかだな。」





やーん

瑞月は
俺たちの声に反応し
くりんと
クッションに顔を埋める。



か、可愛い声だ。
確かに元気ではあるかな。



「ああ、
甘えモード全開だ。

手こずりそうだな。」


高遠は
苦笑する。




慣れた様子で
瑞月に屈み込み、


「瑞月」
まず
呼ぶ。




フニャフニャする。
うふーん
みたいな声を上げて
寝返りだ。




ヤバイ。
可愛い。
唇が尖って
それから…………微笑む。

赤ちゃんの微笑みじゃないか。




次は
揺する。

「瑞月!」

「いやん……。」

お、
はっきり声が出たぞ。

ふにゅーん

クッションに頭を置き直してるけど。






「仕方ない。

実力行使かな。」

高遠がため息をついて
向き直る。


俺はドキンとした。

「じ、実力行使って?」


「くすぐるんです。」

平静そのものの高遠の顔が
ひどく現実離れして
俺に迫ってくる。




瑞月は
ふわふわの白いセーターを
着せられてる。


タートルネックは緩めで
毛足の長いふんわりした襟に
細い首が包まれている。
ほんと真っ白な仔猫みたい。


この子に触れる?!


可愛い
可愛いくて柔らかそうだ。


でも
でも

首から先の肌は
想像したくない。

しないように
しないように
修行してるんだ。


さ、鎖骨の窪みは
深いかも……。
華奢な腕だ。
ほっそりしたうなじだ。


軽かった。
羽根みたいに。
胸は薄いだろう。



いやいや
ダメだ
しっかりしろ


考えない
考えないぞ





俺が焦ってる間に
高遠が
また身を屈める。


高遠は
なぜ平気なんだ。
その自然さに
俺は圧倒されてしまう。






「宿題やるんだろ?」

「…………あとでー。」

「咲お母さんが
見に来るよ。」

「……あとー……あとでやるからー…………」


「起きないと
くすぐっちゃうぞ。」

「………………。」





また眠り込んだ。
俺は
また
恐る恐る
訊いてみる。


「いつも
こんな感じなのか?」

「学校時代より
手強くなってます。

海斗さん、
甘やかしましたね。
しょうがない。
やるか。」



「お、おい!」


俺、
見たくない!
瑞月の…………。





あれ?


高遠は
あっさり
瑞月のあごの下を
こちょこちょした。


キャッ
あははははっ

くりんくりん

仔猫は頭を振り
丸くなる。



な、なんだ。
あごで済むのか。
拍子抜けする。


「ほら
起きて!」

キャーキャー
ジタバタに
〝待って〟
〝タンマ〟
〝たけちゃん〟

混ざる。


クスッ
俺は笑ってた。

ああ、
自然に笑えてくる。
さっきまでの深刻な悩みっぷりが
馬鹿みたいだ。



なんだ。
そうだよな。
子どもなんだ。


瑞月は子どもなんだ。
起こしてやれば
済むことだ。



「ほら
宿題やれよ。」

瑞月は
ぽかんと高遠を見上げる。
うっ
可愛いじゃないか。


「宿題?」




高遠が言い聞かせる。

「宿題だよ。
トムさんが
見てくれるって。」


お、おう!

「咲さんが来る前に
やっとかないと
総帥と一緒にいられなくなるよ。

総帥に頼まれたんだ。
やらせてくれって。」


俺も参戦だ。



ぴょん!

瑞月が跳び上がる。

迷子の仔猫ちゃんだな。

「海斗といちゃダメなの?」



両手を敷物について
今度は
俺を見上げる。

ポーズが
ますます仔猫ちゃんだ。

目をまん丸にして
一生懸命だね。






俺は
にっこり笑う。

「ちゃんと宿題やれば
だいじょうぶさ。
持っておいで。
ここのテーブル借りよう。」



瑞月は駆け上がる。
ダッシュだダッシュ。
わかりやすい子だ。


なんだ。
なんでもないことじゃないですか、
総帥。


子どもなんですよ。



「じゃ、
頼みます。

あいつ、
集中力はあります。
頑張ると思いますよ。
なんたって……」


高遠が
言葉を切って
にやり

笑う。


「総帥と離されちゃったら
大変だからな。」

俺が続けた。




「そうです!
トムさん、
わかってますね。」

高遠が
明るく笑う。



「嘘も方便だ。
天宮補佐が見に来るんだぞ。
俺も必死だ。

起きてくれて
助かった。
お前のおかげだ。」


「トムさん、
優しいから
瑞月に押し切られないよう
頑張ってください。 」


「おう!
次はだいじょうぶだ。

こちょこちょすれば
起きるんだろ?」


高遠は、
ちょっと考える。


「はい
頑張ってください。」


何を考えてたんだろう。



瑞月が駆け降りてくる。
息を弾ませて
ノートやら教科書やら
胸に抱えている。



可愛い。
やっぱり可愛い。


「たけちゃんも
ここでやろうよ。」

瑞月は屈託なく
高遠を誘う。

そうだよな。
みんなでやりたいんたね。



「俺はおじいちゃんと約束があるんだ。
トムさんと一緒だから
だいじょうぶだろ?」

高遠が
瑞月の頭をガシガシする。


「わかった。
だいじょうぶだよ。


トムさん、
数学教えてくれる?」


「任せとけ!
さあ、
やろう!!」


高遠はカップを
キッチンに片付け
俺たちに手を振って
出て行った。


よし!
あとは家庭教師の要領だ。
バイトでやってたからな。
慣れたもんだ。
頑張るぞ!!


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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