この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




「凄い!
   綺麗だね」

山裾の散策路に
少年の声が
甘く響く。


ザクッ
ザクッ
と一足ごとに
踏み固められる真白の道


燃える真紅は
雪を纏い
より鮮やかだ。


白く細い指先は
剥き出しのままに可憐に空を指す。


「おやめ」

胸騒ぎのままに
男は
その華奢な手を
捕らえる。


「どうしたの?」

「…………冷えてしまう。」


捕らえた指先に
息を吹きかけながら
男は
さりげなく少年をコートに隠す。



「あったかーい」

黒いコートに
白づくめの細い肢体は
消えた。


ウフフ

ぴょこん

男の胸に覗く
白い顔に朱の花びらが開く。


「誰もいないね」

ザザッ

雪が枝から落ちる。











ピチャン……。

一点のしみもない
目に染みるような白


少年が
湯から上がる。


手すりに身をもたせ、
雪を
その手のひらに受けようと伸べる。


「冷たーい」

キャッキャ

声が上がり
しなやかに白がくねる。



男は湯から
立ち上がる。

無言で
少年を抱き上げ
湯に身を沈める。


「やん!」

甘い抗議をものともせず
唇を重ねる。


暫しの抗い
静まり行く白珠の肌に
陶酔は満ちる。


吐息をもらし
少年は尋ねる。


「どうしたの?」

男は応える。

「お前は俺のものだ。
   そう知っていただかないとな。」


不思議そうに
小首を傾げ
少年は問いを重ねる。

「誰に?」


その唇に
そっと指をあて
男は声を潜めた。

「山の神にだ。」


しんしんと冷える。
しんしんと思いは深まる。


ひっそりと
胸に収まる白い体を抱き
男は湯気の先に目を凝らしていた。


真紅に燃える山肌は
時ならぬ雪化粧に鮮やかに美を誇りつつ
燦然と夕陽を浴びながら
暮れなずんでいく。



画像はお借りしました。
ありがとうございます。


※11月26日
  いいふろの日だとか。
  お許しください。
  仕事開始前に書いてみました。


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