この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






お部屋だよ。
海斗のお部屋。


入ったらキス?
キスする?

ドキドキしたんだけど
海斗は
しなかった。

いつもの椅子に
一人で座る。


僕は
ちょっともじもじする。
だって
抱っこじゃないんだもの。


んっと
僕、
そこに行く?
行っていいのかな。


海斗が見てる。
もじもじする僕を見てる。


小さくため息?

「……わからないな。」

え?
何が?




海斗が僕に手を差し出す。

僕、
ほっとする。
抱きついちゃう。


ほっぺに
海斗の手が添えられる。
大きな手、
僕のほっぺは包まれる。


見上げると
綺麗な綺麗な海斗が見える。

優しい優しい海斗の目。




「……悪い子だ。
   いい子にしてやる。」 


「僕、
   悪い子なの?」


「確かめてあげるよ。」


お仕置き?
お仕置きかな?

悪い子になると
海斗はお仕置きする。
僕……なぜお仕置きか分かんない。
今日は
何にもしてないよ。



待って
それよりね
僕、
海斗の指を感じたい。

大きな手だよ。
でもね、
細い指なの。


僕、
舐めてみたい。

ほっぺの手にペロッてする。
顔を押し付けて舐めてみた。


海斗は
僕の好きにさせてくれた。
海斗の手をね
両手でもってね
指の間に舌を入れる。

一本一本
ペロペロ
舐めていく。


海斗の息は変わらない。
海斗の動悸も変わらない。

ゆっくりゆったり呼吸する。
どくんどくんと脈を打つ。


でもね、
でもね、
空気が変わるの。


海斗の匂いが濃くなる
濃くなって
僕は檻の中だよ。



海斗は
お仕置きするとき
いつも僕を檻に入れる。


海斗の匂いがね
僕に言うの
逃がさない
逃がさないよって。



お仕置きが始まるよ



こわくて
こわくて
痺れるほどこわい瞬間があるんだ。


逃げたらね

逃げたら
味わえる

その怖さが欲しくて欲しくて
何度も何度も確かめたんだ。





海斗の手が
滑り込む 。



だから言うの。
今言うの。
欲しいから言うの。

「待って……」



待って

待って

待って


僕は身を捩る。
必死に背を反らす。

逃げたい
逃げたい
逃げたい
……………………本当に?本当だよ、


ただね、
僕は
待ってる。 
待ってるの。


本当に捕まる瞬間を。




ああっ……。



お母さん
お母さん
狼に捕まっちゃった


頭から食べられてる
お手てが消えた
あんよが消えた
ドキドキ
ドキドキ
ドキドキする心臓しか残ってない


僕、
消えちゃう
海斗の中に溶けて消えちゃう


「海斗……もうだめ……。」

僕は囁く。



「悪い子だ。
  まだ嘘をつくんだね。」

お母さん
お母さん
狼は優しい声なんだ


「ほら
   ほんとのことを言ってごらん。」

僕のお口が
戻ってきた

声がね
止まらないの
高く低く
歌ってるみたい


お母さん
お母さん
狼の指はピアニストみたいに
繊細だよ


「さあ
   言ってごらん
  言わないとやめちゃうぞ。」

いや
いや
止めないで

「もっと……」


すっと
指が離れてく

「もうお勉強の時間だな」




いや!

いや!!



「……もっと
   海斗!

  もっと!

 もっとだよ!!」



僕は言わされる
何回も
何回も言わされる

海斗のお部屋のお椅子の上で
僕は狼に食べられる。





「……わからないな。」

狼は
また呟いてる。

目を閉じた僕の髪を撫でながら
ため息ついてる。


何が分からないの?
僕は分かるよ。

大好きだと食べられたくなるんだよ。
大好きだと捕まえてほしくなるんだよ。


お母さん
咲お母さん
海斗は何が分からないの?

イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。