この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







伊東さんが退院する。

〝迎えに行くー〟
って
瑞月は騒ぐし、

〝行ってやらなくては
   すまない〟
って
海斗は真面目くさって言い出すし、

たけちゃんが
必死に止めたのよ。



じっと聞いてた
拓也さんが

〝俺が行きます。
   海斗さん、
   昨日の分の決裁丸々残ってますよ。

   瑞月、
   宿題リストを先生にいただいたよ。
   できてるのはあるの?〟    

って
ビシッと言って一件落着よ。





微妙に
海斗は拓也さんが苦手になってる。
咲さんに似てきたって
ぶつぶつ言ってるの。
面白ーい。




仔猫ちゃんが
ずいぶん丈夫になって
洋館は
空気がピンクに染まった。




羞じらう瑞月を海斗があやす
ってのも
それは素敵だったけど、

羞じらってみせる瑞月に海斗が甘々になる
ってのも
悪くないわ。


聞いてらんないけどね。




「僕、
   海斗が強くて嬉しいな。
   二人きりでいられるもの。」


なーんて、
胸に収まって
見上げる。


海斗
ブレーキ外れる!
の優しい優しい目に変わる。


の瞬間に
するり

抜け出しちゃう。

で、
くるり

振り返り
明るく声を上げる。

「僕、
   ご飯よそうね。」




おひつに
二人分のご飯が
ちゃんと届いてる。

竈で炊いてる
お屋敷自慢のご飯よ。
小さな手にしゃもじを握って
一生懸命よそう。

この辺は同じね。
可愛いこと。





はい
って海斗に渡す。


当然
海斗の手が触れる。
すると
頬が上気する。


で、
チラッ
て海斗の顔を見て
フフッ
て笑って
お顔を傾ける。


海斗が
傾けたお顔に撃ち抜かれてる間に
さっ

お席に着いて
お手てを合わせるの。


あ、
目は伏し目ね。


で、
パッ

目を上げる。


真っ直ぐ海斗を見上げて
「〝いただきます〟だよね?」
って
またお顔を傾ける。


必殺技よね。
分かって使ってる。




里芋が
コロンって
転がる。

「あん!」
って言う。

もちろん
海斗は
お顔を見るわ。


だからね、
ペロッ
て舌を出す。

目は上目遣いね。



つまり、
まあ、
海斗が見てるのを確かめて
甘えてみせてる。



前はね、
見られてますます赤くなっちゃって
困ってた。


今はね
見られるの
楽しんでる。


海斗が
夢中になるの
確かめてるもの。





「あのね、
   もうすぐ
   二人が
   戻ってくるでしょ?」

誘い方も
みなまで言わない。


コーヒー飲んでる海斗を
覗きこむ。


海斗は
瑞月を膝に乗せる


ちょっとだけ
荒々しい海斗

瑞月は
喘ぐ。
喘いで
目をいっぱいに見開いてみせる。


男の力に
微かに怯えてみせる仔猫ね

海斗の唇から
呻くように洩れる声

「可愛い…………。」



瑞月は
まんまと大人のキスをもらう。



「……にがい。

  海斗のキス、
  にがくて、
  苦くて、
  熱くなる。」






そして、
咲さんよ。


戻ってきた二人も
コーヒーを飲む。
四人の団欒
食後のひとときになった。


咲さんが
瑞月に
温かなココアを渡してやりながら
言ったわ。


「瑞月、
   意地悪したくなっても
   ほどほどにするのよ。」


「僕、
   あの……意地悪なの?」


「あなたは天使よ。
   素直で
   真っ直ぐだわ。
   だいじょうぶよ。」


瑞月は
ほんとに小首を傾げる。

戸惑う瑞月を
海斗が
たけちゃんが
見詰めてる。


「殿方は
   狼なんです。

   一咬みで
   瑞月を倒せるのよ。

   意地悪はほどほどにね。」


ん?
ん?

と瑞月は考えてる。
ちょっと
あなた
あれを無意識でやってるの?


無邪気で無垢なあなたに
海斗は
もう
どこか痛むみたいな顔になってる。


うーん
これも媚態?
天然の媚態?


神様、
この蝶々、
地上に置くには
危険かもしれません。






咲さんは
あとで
こっそり教えてた。


「いい?
   海斗さんの目がね、
   暗くなったら
   意地悪しすぎです。
   ひかえなさいね。」



伊東さんは
夕方にはここにいる。
お屋敷は
パーティーへと準備に入ったわ。


瑞月、
意地悪しちゃだめよ。

あなたは
どんな女の子より綺麗で可愛い。
狼はあなたに夢中なんだから。







イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。


人気ブログランキングへ