黒猫物語 阻止せよ 18
NEW! 2016-09-26 05:40:34
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





ひどく痛んだ腹は、
嘘のように
何ともなくなった。



目を開けたら
総帥が
覗き込んでおられた。



〝だいじょうぶだ。
しっかり休め。

済まなかった。〟




チー……いや、総帥……。
情けない奴で
申し訳ありません。



瑞月さんの警護が
気にならなかったはずはない。
抜き打ち訓練まで
なさったんだ。



指揮官がいないチームは
力を失う。
俺が抜けるなら
総帥は残りたかったに違いない。


それが、
総帥自ら
俺に付き添ってくださったなんて。


有り難いです。
申し訳ないです。




総帥は、
あれこれ医師と相談し、
俺を入院させると
学校に戻られた。


もう何ともないと申し上げたが
〝しっかり休め〟

取り合われなかった。


そのときは、
まあ、
一泊なら……と納得した。




でも、
この部屋……個室だ。



色々検査を終えて、
さあ
病棟へとなったら
個室だった。




重傷を負った訳でもなく、
重篤な症状な訳でもない。


今となっては
自覚症状すらない。


これじゃあ、
警護班に良くない先例を残してしまう。




俺は
あれこれ考えていた。





トントントン

ノックに続いて
看護師が覗いた。


「伊東さん、
検温です。」


ベテランさんだ。
病院では、
まず、
ベテラン看護師は頼りになる。


「はい」


俺は
素直に
渡された体温計を挟み、
尿の回数に大便の回数にと
質問に答えた。



「6時に夕食です。
ご飯は常食としています。

ご自分でお膳を取りに行かれますか?」


ベテランさんは、
にっこり聞いた。


〝自分で配膳〟
〝常食〟



いうことは、
俺は軽症とされている。



「あの…………。」

俺は
思い切って
聞いてみることにした。




「何ですか?」

また
にっこりと
返してくれる。




「もう痛みもありません。
入院するほどのことは
ないんじゃないかと思います。

ましてや個室は贅沢ではないかと
恐縮しております。

先生とお話できないでしょうか?」




看護師は、
えっと、

パラパラファイルをめくる。



「付き添いの方が、
また
お出でになるそうです。

先生も、
そのとき
説明に
いらっしゃいます。

ご相談できると思いますよ。」


「ありがとうございます。」


よし!
総帥のお気持ちは有り難い。
が、
せめて個室は固辞しよう。





さて、
もう6時近い。

箸と湯呑みを出さなくては。




備え付けのロッカーを
開けてみる。


…………俺は絶句した。
言葉にならない思いが込み上げる。





西原班の若いのによると、
入院に要する様々は、
総帥自ら購入下さったそうだ。




病院の売店で
総帥が
お買い物を……。
それも、
こ、こ、こんな物を…………。





ああ、
若いのに言っても始まらない。
総帥のご意志には
逆らえまい。




が、
これは
警護の基本に
反している。



〝目立たない〟
大切だ。





総帥は、
ご自身については
不思議と御自覚が薄くておいでだ。



総帥は目立つ。
ほんとに目立つ。


こんな目立つ方を
あちこち動き回らせては
警護にならない。



御自身が〝普通〟だと
認識されているのが
間違いの元だ。




瑞月さんの警護プランを
自らお立てになった時もだ。




最初、
御自分が
学校まで送迎なさるおつもりだった。


〝保護者なんだから目立たない〟


まさか
本気で御自身が
普通の保護者に見えると
お考えだったとは。




ああ、
この方は
こんなに切れ者でありながら、
御自分のことは
わからない。


フツーじゃないのに
フツーのつもりだから
フツーのことは苦手なんだ。


俺が、
俺が、
俺がカバーする!


あのとき、
俺は、
そう決めたんだ。






ああ、
それなのに、
初日からこの様か。
ため息が出る。



もう
きちんと整理された
それらは
一目で把握できた。



下着とパジャマは
フツーだった。

もともと
売店には
フツーの柄しかないものだ。


が、
小児病棟が
あるからだろうか。


サイズが
共通のものは
一般的成人男性向けのものとは
限らなかったようだ。



基本、
ピンクではなく
ブルーが選ばれているのは、
俺が男だからだろう。




箸と湯呑みはミッキーだ。
歯ブラシはドナルドだ。

タオルは
大も小もプーだ。

スリッパには
小さなミッキーマークが
ちりばめられている。




総帥の日用品購入感覚は
瑞月さん仕様に
固定されてるんだろうか。


これを購入する総帥を見た者は、
総帥の姿を忘れまい。









御自分が
かなりの美男子に
分類されることだけでも
分かっていていただきたい。

いや、
御自分が
女性の視線を集める存在と
認識するだけでもいい。



美の基準が
瑞月さんでは困る。


御自覚を促したい。




そのくせ
侵入するときは
気配もないんだから
始末に負えない。




また
お逃げに……いや違う!
臨時訓練されるだろうか。



総帥が
姿を隠したら見つからない。

総帥が
侵入を図るなら阻止できない。

総帥が
攻撃してきたら10名構成なら全滅は確かめられた。




御自分がお強いことは
少しは認識しておられる。


が、
突出していることは
どうだろう。


自覚は、
…………ないかもしれない。




まずい!

ドキドキしてきた。
病院の雰囲気のせいだな。
動悸がする。



総帥がいらしたら、
先生もいらして診察だ。


せめて個室は出たい。
動悸は収めよう。



落ち着け

落ち着け

落ち着くんだ。



画像はお借りしました。
イラストはwithニャンコさんに
描いていただきました。
ありがとうございます。