黒猫物語 おまけ 阻止せよ6
NEW! 2016-09-14 03:31:59
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





瑞月の背中が
急に消える。


素早い天使は
音楽室入り口から
いきなり
猛ダッシュした。





前には
あの人がいた。


なぜ
いるのかなんて
どうでもいい。





ただ
あの人は
いた。





お前は
椅子の間を駆け抜ける。
そんなに一生懸命に
走らないで。



今日は
そんなお前に
少し
胸が痛む。





ピアノ

ピアノの前の担任

担任の横に立つマサさん

そして、

海斗さんが両手を広げる。





その胸に飛び込むお前は
なんて美しいんだ。



天使は欲情する。



自分を抱く腕に背を預け
包み込む胸に胸を
がっしりと立つ足に足を添わせ、
ただ味わう。




抱かれている自分を
相手の体に確かめようと
天使は
目を閉じる。



海斗さんは
静かに
瑞月を抱いていた。





ああ
違うね、瑞月。




西原さんにも
かっちゃんにも
お前は
無邪気に抱きつくけれど、
こんなにも
違うんだね。




お前は
朝から
ヒラヒラ舞い遊び、
〝嬉しいよ〟
〝大好きだよ〟

抱擁を
俺たちに与えてくれた。





嬉しいよ

大好きだよ




それが
どんなに可愛いか




俺たちは
メロメロだよ、瑞月。



でも、
違うんだね。





今、
お前の欲情が
見える。


海斗さんを
お前は味わっている。




その匂いを
その腕の力を
その胸の厚みを
お前は味わっている。





やっと顔をあげ、
瑞月が
何か囁いている。



海斗さんの顔は
優しい。


優しくて
穏やかだ。





マサさんが
海斗さんの肩を叩いた。



一段高い段から
マサさんは
ひょい

降りてくる。




そうだね。
マサさんに断りなく
このクラスに入れる者なんか
いない。




海斗さんは
マサさんの許可を得たんだ。


二人は
マサさんに続く。





入り口にたまる俺たちは、
固まって
二人を見詰めていた。



なんとも
口の出しようがない。
そして、
動きようがなかった。



だって
とにかく
綺麗だった。





アキさんも
サヨさんも
二人に釘付けだ。





よく笑い
よく涙ぐみ

みんなを
大好きでいてくれる瑞月は、
可愛いみんなの天使だ。



でも、


海斗さんは
瑞月を拐っていく。




海斗さんの隣の瑞月は
一対の片割れだ。





クラスメイトの瑞月は
一幅の絵画に
吸い込まれていた。





〝美しい二人〟


神話を見ているみたいだ。


屋敷にいると
ここまで目立たないんだけどな。





「すごく綺麗……。」


「格好いい人…………お似合い。」


女性陣は
絵に描いたような二人を
うっとりと
見詰めている。



二人は
マサさんの前に座った。



「行こう
かっちゃん」

俺は
かっちゃんと
マサさんの横を目指した。


今は
瑞月が一番かもだけど、
俺は
元祖かっちゃん担当だ。




後ろの席が
騒がしい。


「ち、違う!!」

声を殺して西原さんが
二人の勘違い?を正そうと
躍起になっている。




「何が違うのよ。

すごく綺麗じゃない。」




「こんな綺麗な組み合わせ、

滅多なことでは
見られません!」




「妬いてんの?

しょうがないなー。
恋人だって
言ってんじゃないんだから
落ち着きなさいよ。」


西原さんは
たじたじだ。





だいじょうぶ。
ここまで現実離れしてると
下世話な想像もしにくいと思いますよ。



瑞月の欲情は
透き通っていて
清らかだった。


海斗さんは
神話の英雄みたいなオーラに
包まれていた。



常人の範疇の話じゃない。



俺は
なんだか
少し楽になった。


こうして教室なんていう
普通の場所に置くと、
二人の特別が
よくわかる。



二人にして一つの魂
それは、
分かちがたい。
分かちがたいんだ。








チャイムが鳴る。


あれ?
マサさん?



ターーン


ピシッと、
でも柔らかく、

ピアノの音が響く。



水澤先生が
ピアノに向き合って座り、
鍵盤に手を乗せていた。



ぱっ

マサさんが起立する。


海斗さんも起立する。



俺たちは
慌てて
後に続いた。



ターーン

ピアノに合わせて
礼をする。


ターーン
最後に頭を上げた。


「着席!」

俺たちは座った。




先生が立ち上がる。


俺たちは
一斉に先生を見詰めた。



画像はお借りしました。
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