黒猫物語 小景 明かり取り
NEW! 2016-08-30 16:46:09
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





さわさわと
梢が鳴る。


庭から
立ち上る花の香りが
屋根の下に
優しく踞る。



春宵価千金か。



ベッドは
明かり取りの窓の真下だ。

二人並んで座れば
月が
窓の真ん中に
煌々と蒼白く光を放っている。


「お月様、
綺麗。」


そうして
お前は
その細い腕を差し伸べる。


いつかの夜の涙は遠い。


美しいものに
お前は
ただ
美しいと心を震わせる。


「ご覧」

俺は
小卓に置いたマッチを
手に取る。


ガラス器に水を張り
その中心に燭台を置いてある。


蝋燭に灯を点す。


ふわりと
幻想的な風景が
広がった。


水に浮かぶ薔薇たちが
蝋燭の炎に
本来の色を取り戻す。


ガラスに煌めき
水鏡に揺らめき
花々の姿が
闇に浮かぶ。



「…………綺麗。」

息を詰めたように
お前は呟く。



「ああ、
綺麗だ。」

魅せられたように
見詰めるお前の肩に
俺は口づける。



「さあ」

横たえた体が
月光に浮かぶ。


その白く伸びた足の先までが
その淡く仄白い光に
輪郭を溶けこませる。


唇をあててよいものか
ふと
迷わせる侵しがたい威に打たれ
俺は薔薇の花びらを
手に取る。


花びらに
白磁の肌を辿る。


瞼を震わせて
お前は耐える。


白い花弁が
その腹の
愛らしい窪みを過ぎるとき
ついに
お前は声を上げる。


花びらに
月光に

お前は柔らかく
溶けていく。



「綺麗だ」

花が香る。
灯が揺らめく。


月光の寝台に
俺たちは
情を交わす、



お前の吐息に
花は開く


羞じらいに背けるうなじに
唇を這わせ
俺はその花芯に身を沈めた。


あっ…………。


眉をひそめ
喘ぎに沈み
お前は身を震わせて
俺に応える。


月光が俺たちを
濡らしていく。


絡み合い
縺れ合い


いつしか
上がる咆哮に
俺は
お前を抱き締める。



ジジッ

蝋燭の炎が揺らめき
ふっ

仄明かりは消えた。


二人
法悦の深みにたゆたい
一つになったまま
月光の寝台に横たわる。


フクロウが鳴いている。
夜は優しく更けていく。



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