黒猫物語 小景 明かり取り
NEW! 2016-08-30 08:19:11
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





小さな洋館の
屋根裏部屋。



明かり取りの窓が
庭に面した奥の壁と
斜めに落ちていく屋根の2ヶ所に
大きく取られている。


あ…………。

弾む息に
白い胸は反る。

その花芯は色を深くし、
汗にしとど濡れ
ツンと
上を向く。


震える花芯を
深紅の花びらが掠める。


ああっ…………。


微かな刺激に
白い裸身は身悶える。



筋肉の一筋一筋を
彫り上げたかの男の体が
生きた白磁の体を捉え
その震えを
そのわななきを
導き
操り
奏でていた。



ベッドが
差し込む月光に
蒼白く
浮かぶ。


花の香りは
既に
甘く部屋を満たしている。


それは、
少年の白磁の肌に散らした花びらからか
庭から立ち上り部屋を包むそれか
既にわからない。



ぽうっ

と仄浮かぶ灯は、
小卓に
どっしりとあるガラス器から
光暈を広げている。

ガラス器には
水が張られ

薔薇を浮かべた水鏡の中心に置かれた燭台に
蝋燭が炎が揺らめいている。




屋敷に少年を守った常夜灯に代わり
男は
蝋燭に灯を点していた。


男の指が
花びらを拾いあげ
少年の肌に
あしらう。


花びらの水滴に
キスの刺激を感じては
四肢を震わせて
少年は啜り泣く。


月光は降り注ぐ。


「ほら、
瑞月、
お月様だよ。」


男の優しい声に
仰向く眸は
法悦に潤み
焦点を結ばない。


その背を
白い花びらで
男はなぞる。


「綺麗だね」



四肢を突っ張り
沈み込む姿を
男は愛しげに見詰める。


「薔薇の香りだよ。
花におなり。」


襞の一枚一枚に
纏う油分に
巧まず開かれる落花の風情。

男は思わず息を呑む。



「いい子だ……。」



庭が
洋館を
包んでいた。


花々の香りは
階段を上り
屋根裏に満ちる。



花々の息遣いは
庭に満ちて
睦み合う恋人たちの部屋を
優しく見守る。


低い屋根
優しい囁きが
甘く壁を這う。



海斗……

海斗……

海斗……


ここにいる……

ここにいる……

ここにいる……



寄せては返す
甘い声


高く押し上げられては
悦楽に上がる咆哮


愛している

愛している


愛している



愛している



蝋燭が尽き
ジジッ

炎が揺らめき消えるころ、

絡み合い
縺れ合い
美しい一体の彫刻となった二人も
最後の咆哮に営みを終えた。


優しいとき
甘い空間
刹那の永久に
二人はたゆたう。



明かり取りから
月光は
蒼白く光を注ぐ。


美しい恋人たち
幸せな二人



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