黒猫物語 小景 あのね
NEW! 2016-08-29 06:46:39
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





可愛い。
何回お前に言ってきただろう。
可愛いくて仕方ない。




ソファに
二人
寄り添う。




小さな頭を
俺の胸に預け
腕を畳んで丸くなる。




可愛い仔猫



足先がバスローブから零れて
かかとから足指まで
白磁に焼き上げたかの白さに
俺を驚かせてくれる。




何度見ても
俺は
あらためて酔う。





本を開き
お前の髪を撫でながら
ページを繰る。




懐かしい時間
切なく甘い
あの頃が甦る。





カナダの日
いつか手放すお前を
その日まで
その日まではと
慈しんだ。





お前は
誰のものでもない
俺のものだ。




鷲羽の者
一人たりとも
俺たちを認めぬ者はいない。




勾玉に選ばれた
玉座と祭壇の主だ。
二人ともにあっての鷲羽の守りだ。




闇は光と呼応する。
そのせめぎあいは
既に
始まっているのだから。




瑞月の幼さも
瑞月の素直さも
今のままに
懐に入れ
鷲の翼にお前は守られる。




唯一無二の巫
鷲羽の魂だ。





もう
自ら手放すことも
お前が去ることも
考えなくていい。

戦うだけだ。






いい子だ。
花を纏ってきたな。
いい匂いがする。




俺は
その髪を撫でる。





「もう
休むか?」



誘いを込めた
俺の声に
お前は
ぴくんとする。




くるりと
身を返して
首に腕を巻き付けた。




「あのね……。」

顔は
変わらず見えない。



くぐもった、

それでいて、

思い切ったように響く声。





俺は
ただ腕の中のお前を
そっと撫で擦る。



声は
続き始めた。


「お母さん
お父さん好きだったよね。

僕が
海斗を好きみたいな
好きだよね」


「そうだな」


「お母さん
…………泣かなかった。

ずっと泣かなかった。

ありがとう
って

ありがとう
って
言った。」


声は
密やかに
辿る。


「そうだ。」


抑えられた
お前の息遣いに

俺は

触れる手の動きを
より
ゆっくりと
より
柔らかくする。




「……なぜ
できるの?

僕……海斗がいなくなったら……。」


しばらく
ただ
静かに抱いていた。

その問いが
お前に染み渡るまで

その答えが
お前なりに出せるまで



俺は
お前も分かっていることを
一緒に振り返ろう。





「…………わかることだけ
分かっていればいい。

瑞月、
今分かることだけ
大切にしていろ。

そうすれば
分かるときに
分かる。」


お前は
じっと動かない。


「お母さんは
お父さんを愛していた。

最後までお父さんを愛して
幸せだった。

お母さんは
お前を愛していた。

お前が生きていくことを祈って
命がけでお前を守った。

最後に
ありがとう

言葉を残した。

今は
それだけで
十分だ。」


お前は
顔を上げる。


「海斗

でも
僕は…………。」


唇を重ねる。

静かなキスの時間に
俺は
思いを込める。



唇を離し、
固く目を閉じるお前に
俺は刷り込んでいく。


「愛は変わらない。

俺の愛は変わらない。

お前の愛も変わらない。

体は離れるときがあっても

この愛は変わらない。

それが分かっていれば

それでいい。

お前を奪われたら

世界の果てまでも

俺は追う。

必ず

お前に行き着いてみせる。


どんなに汚されていても

どんなに姿が変わっていても

俺には

お前が分かる。

怖いことがあっても

辛いことがあっても

必ず

俺が迎えに行く。

それだけ

分かっていれば

いいんだ。」


瞼が震え、
涙が
一筋頬を伝った。


「目を開けてごらん」


ぽっかりと
開いた眸に俺を映すお前。


さあ
応えて。


「何が見える?」


「…………海斗。」


「それでいい。」



俺は
お前を抱き上げた。


二人だけの夜は
これからだ。


もっと教えてやる。


俺だけを見ること
俺だけを感じること
二人だけでいく世界の甘さを。


隠れ家の寝室は
花に満ちている。


甘い時間の始まりだ。


愛を学び始めた
幼い伴侶を腕に
俺は
寝室へと歩き出す。


怖がるな
どこにいようと
俺はお前のもの
お前は俺のものだ。


花は薫る。
咲き染めて
甘く薫る。


手折られるのを待ち
腕に咲き匂う
花よ


俺はお前を愛している。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。