黒猫物語 小景 花のあるテーブル
NEW! 2016-08-26 23:25:16
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





水に色とりどりの薔薇を
浮かべる。



ガラスの皿は
浮かべた花の命を受けて
その色を映す。



テーブルに
ペタンと
頬をつけて
お前は
花を見詰める。



「綺麗だね」

そう
お前は呟いた。





リビングは
庭に向かう
二面全てがガラス張りだ。





夕暮れの風情は
部屋を満たしていく。


斜光は
仄赤く
リビングを彩り、


一日の最後、
夕焼けが
空全体に
きらびやかな命を
与えていた。




窓ガラス一杯に広がる
見事な絵巻物。



〝ほら
雲の端を見てご覧なさいよ。

ああ
もう変わっちゃう。

なんて綺麗なの〟


そうだな
教えてもらって
よかった


道子
お前に
教えてもらったものは
いつも
美しい。





リビングは
荘厳な夕焼けに
包まれた。


お前は
その中にいる。



白い頬を見せ
お前は
一心に
水に浮かぶ花を見詰めている。


水面が
光を弾き
花びらは
光に照り映える。



花を見詰めるお前の眸は
斜光を弾いて
煌めいている。




天使は
自分の姿は
わからないのか。


美しい


お前は
光を纏い
その羽衣を翻して
天に昇ってしまいそうだ。




俺は
お前を
お前だけを

見詰めている。





俺は
一日を噛み締めた。


感謝する。
この庭を
この家を
与えてくれた全てに感謝する。




甘い
お前の声が
囁く。



「海斗……
僕たち、
カナダでは
お花
飾らなかったね。」


「そうだな。」

ああ
思い出すことも
なかった……。






「ここ
お花いっぱいで
素敵だね」


お前の声は
温かな
何かをなぞるようだ。


「そうだな。」

そうだ。
確かに温かなものは
俺にも
あった。




可愛い声が
一心に語る。


「僕ね、
お母さんと
お花たくさん
育ててたよ。

うんとね
こんなふうに
お花をたくさん
飾ってた。」



俺の
心が
素直に応える。



「俺もだ。
花が
たくさん
あった。

花に
囲まれてた。」





花のある風景
花の中の愛しい人





「海斗……
僕、
海斗とお花育てたい。」


「俺もだ。」


今、
お前を得て、
俺は
どんなにか
幸せだ。




「お花って、
毎日
育つんだよ。」

声が
可愛く弾む。


「そうだな。」


愛しさに
胸が痛い。






「だからね
この時間は
終わらないよ。」


生真面目に
言い切るお前


その顔は
よく知っている。




くっ
と顎を引き、
しかつめらしく
目を見張るんだ。






「ああ
終わらない。」



そうだよ
終わらない。


お前を抱いて
この家に
入っただろう?


今日は始まりだ。




「今日はね
次に
繋がるよ。」




いつの間にか
庭も
部屋も
夕闇に沈んでいた。




瑞月の声が
薄闇を
優しく縫って
伝わってくる。




俺は
お前に
近づいていく。




さあ
一緒に
カーテンを引こう。



夜が
始まる。




二人だけの夜を
始めよう。



画像はお借りしました。
ありがとうございます。