黒猫物語 外伝 抜き身 3
NEW! 2016-08-25 07:19:56
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







バーPIETA。
春が終わる頃には
ここは
冷たい少年に詣でる神殿に
なっていた。


女たちは
少年が手伝う僅かな時間を貪る。


この夜の
刑事の来訪も
雨に濡れた少年の裸体も
女たちには
少年の与える蜜だった。



神殿の奥の院は
PIETAの上の階にある。


そこに、
ビルのオーナーでもある神山は
居を構えていた。


日付が変われば
少年は上に上がり
ベッドに入る。


時間は
いつもの手順で
流れていく。


少年の姿が消え、
女たちが誘いあって帰っていき、
店内は
それぞれの時間の馴染み客に
移り変わる。


PIETAの夜は
3時まで明けることがない。



密やかな足音が
階段を上がっていく。



人影は
ドアノブに手をかけ、
息を詰める。


カチッ

ノブは回った。



ママを務める自分が
たかが中学生に
ドキドキするなんて…………。



上に上がる少年の手に
〝鍵をかけないで
後で行くから〟

メモを押し込んだ。



教えてあげる



14歳の男の子だ。
冷たい顔をしていても
女の体が気にならないはずがない。



先程まで
思い込んでいた考えは
ドアが開いた瞬間に
消し飛んでいた。


動悸がする。
顔に血が上った。



真っ暗な
室内だった。


目が慣れたところで
右手に
僅かに開いたドアが見えた。



ああ
待っていてくれた
やっぱり子どもだ。



ドアをすり抜けるときには
かき集めた自信で
かろうじて
ママの顔を取り戻していた。


ベッドに
転がる少年は
Tシャツに
下着姿。


ほんとに中学生ね。
どんな顔をするかしら。


ベッドに
そっと
腰を下ろした。



少年の肩を揺らそうと
手を伸ばした。


「何のご用ですか?」

店内と変わらぬ声が響き、
冷たい眸が
見返していた。




「あ…………。」

言葉が消えていった。

〝教えてあげる〟も
〝じっとして〟も

相手をリードする言葉は
出せなかった。



「抱いてほしいんですか?」

少年は続けた。



「違うわ。」

なんとか大人の声が
答えていた。



「用件は?」

少年は
畳み掛ける。




なんとか続けた。



「抱いてほしいんですか?
なんて、
経験を積んでから
仰有いなさい。

あなたに
教えてあげたくなっただけ。

素敵な男の子だから。」


少年は
チラッ

ベッドサイドの時計を
確かめた。


「同じことです。

満足いただけたら
お帰りください。」



抱き寄せられ、
くるりと
身を返された。


「服は
そのままで
どうぞ」


いきなり
芯を狙った責めが
始まり
息が止まった。


背後から
裾は割られ
薄い布を隔てて
嬲られていた。


背は
抑えられ、
振り向くことが
できない。


うっ……。
最初の呻きが洩れる。


「時間がありません。
下げます。」



直に捉えられてからは
狂うだけだった。

抑えられ
固められたまま
上がる
吼えるような
自分の声。


媚態も擬態もない
罠にかかった
雌虎だった。


「お帰りください。」

自身は
顔を合わせたときのまま
Tシャツに下着姿の少年は
事務的に言って
ベッドに横たわった。


脇の床に崩れたまま
女は
息を弾ませる。



「抱いてないじゃない!!」

蹂躙された
女のプライドが
悲鳴を上げた。


「必要ないでしょう。
あなたは
行った。

収縮は確かめました。

お帰りください。」



その通りだった。
ただ
悲しかった。

自分が
哀れだった。

「分かんないくせに!!

聞いたふうなこと
言わないでよ!!!」


すっ

少年は起き上がり
ベッドから
下りた。


泣きじゃくる女の顎を捉え、
上向いた唇に
唇を重ねた。


心が
しんと
静まっていくのを
感じた。


キス……。
キスをもらってる。




「悲しい人がいました。

必要だから
学びました。

満足いただけたはずです。
お帰りください。」


手を取られた。
立ち上がるのを助けられた。


ふわふわと
玄関までを歩いた。


腰には
少年の手があった。


玄関から
出た目に
深更の空にかかる
月が見えた。


「ねぇ、
月が……。」

そう
言いかけたとき、
ドアは閉まった。



深く燃える燠火が
体の奥深く
埋め込まれていた。


少年の意に沿わぬことは
もう
何一つできない。


少年の愛撫をもらうためなら
何でもする。




女は
変わってしまった自分を抱え
呆然と
月明かりの中に
座り込んでいた。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。