黒猫物語 浮舟の選択 小景 猫の鼠当番
NEW! 2016-08-17 22:18:04
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






あら?


階段を上ってくる気配に
私は、
お気に入りの小部屋を出た。



そう。
今朝ね、
私のお部屋ができたのよ。


小さなお部屋だけど、
素敵な寝床も
綺麗なおトイレもあるわ。


すごいでしょ。





おじいちゃん?

だいじょうぶよ。


おじいちゃんは
キタモトさんに
畑仕事を
教えるのに
忙しいんだもの。




結城さんもね、
畑仕事が
好きみたい。


二人で
午前中は
何だかんだ
土いじりしてるわ。


それにね、
楽しそう。



奥さんのお庭があるのよね。


結城さんが
素敵なお庭ですね
って言ったら
おじいちゃん、
すごく
幸せそうに笑ってた。



わしの奥さんの庭を、
わしが守るんじゃ。


おじいちゃん、
胸を張って、
そう言ってたわ。




おじいちゃんは
もう寂しくないの。








今はね、
もっと違うことが
心配よ。




夕べの闇。
思い出すだけで
首の後ろがチリチリする。




今朝、
私は、
洋館にいるために
粘ったのよ。




あちこち
隠れ回ったわ。





で、
咲さんに
見つかっちゃったんだけど、
咲さんは
こう言ったの。



「黒さんには
洋館に
いてもらいましょう。

猫は鼠を捕ってくれます。

黒さんは
鼠を見つけたのかもしれません。」




びっくりしちゃった。




鼠って
何のことだろう?


もしかして、
夕べの闇のこと?


そう思ったわ。





だって、

猫ドアは、
二人の部屋にも
付けられたんだもの。


その鼠、
二人の部屋に出るの?





咲さんも
おじいちゃんも
何か感じてくれたのかしら。




わからないけど、
気になる。


あの石とか
あの闇とか
気になるわ。




私に
何か期待してくれてるなら
嬉しいわね。


厭らしい闇と
綺麗な翠の光。


あれは、
人に説明するの
難しいかも。



猫は
理屈は関係ないわ。
見たものは見たのよ。







で、
小部屋を出た私はね、
瑞月を抱っこして
階段を上がってくる海斗を見たの。





瑞月は、
目を閉じてる。
でも、
眠ってないわね。



瑞月の石が、
ポワン

光ってる。



ウフフ

クスクス


笑ってる。
ふわふわしてる。
仔猫ちゃん。




「いい子だ。

もう
戻っておいで。



愛してあげるよ。
約束したろう?

戻っておいで。」



初めて聞く
蕩けるような
海斗の声。



勾玉のお陰ね。
唯一無二の魂の半身ですもの。
疑いなど入る余地もない。




声に滴る愛しさが
瑞月を濡らすのが見えるようね。


あなたの愛を注いで
洗ってきたわけ?






そして、


海斗の石が、
キラッ

光った。






キラッ…………。



こっちは何なの?
懐に隠したナイフが
月光を弾いたわよ。



あなたの牙は
研ぎ澄まされ、
油断しきった獲物の
喉笛を狙っている。



ほら、
あなたの獲物よ。


「うん。

僕、
海斗のだもん。

海斗にしか見せないよ。
海斗に見てもらう。」



瑞月は
あなたの腕の中で
あなたの顔を
甘く見上げる。

眸が
とろんとしてる。





そして、
あなたは、
ますます優しい。


「いい子だ。

頑張るんだよ。



今日は、
朝から
楽しみにしていた。」




「朝から?」


瑞月は、
小首を傾げる。


可愛い。
すごく可愛いわね。





「そう。
朝からだ。

お前の顔ばかり
浮かんできた。

見せてくれたら
御褒美だ。

楽しみにしておいで。」



あなたの声は、
もう
この子を抱いている。


仔猫は
うっとり牙に
見とれちゃってる。




朝からね。
ふーん。




瑞月ちゃん、
あなた
何かやらかしたわね。




うーん

海斗、
その御褒美、
あなたの牙なんじゃないの?



あのね、

狼さん
わかってる?




甘々の仔猫ちゃんに
しちゃうとね、
すごく怖がりになっちゃうのよ。

感じててもね、
怯えちゃうんだから。




逃げられちゃったら
洒落にならない。




その牙、
気をつけてちょうだい。


怖がらせずに、
咬み殺す。



また逃げられないように
頑張りなさいよ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。