黒猫物語 浮舟の選択 小景 ちろちろと
NEW! 2016-08-17 10:05:31
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





屋敷に着いて、
車から下りたら、
咲さんが待ってた。


咲さんは、
頭を下げた。


「お帰りなさいませ。
総帥。

高遠さん、
今日はありがとうございました。

瑞月の母として、
お礼を申し上げます。」


たけちゃんは、
照れて、
両手をケシケシするみたいに振る。


「そんな
俺は
何にもしてません。


ご心配をかけました。」



たけちゃんは、
ぱっ
と頭を下げた。



「ガタガタしても
僕たちに
任せてくれて、

そのまま
学校に行かせていただいて、
感謝してます。

お陰様で
なんか
すごく勉強できた1日でした。」

たけちゃんは
もう一度
お辞儀する。

ぺこり。

そして、
僕に手を上げて、
母屋に駆けて行った。




咲さんが
僕の前に来る。


ほっぺに
咲さんの手が当てられる。


「お帰りなさい」


お母さんの
お帰りなさいは
優しい。




「ただいま」

僕、
ちゃんと
報告しなきゃ。



「僕、
天宮瑞月に
なりました。

学校で、
天宮瑞月って呼ばれて、
はい!
って答えました。

僕、
咲さんみたいに
強くなるよう
頑張ります。」


咲お母さんは、
にっこりした。


「瑞月は
瑞月よ。

咲は、
咲のようにとは
願いません。

瑞月ちゃん
これからは、
瑞月と呼びますよ。

瑞月は瑞月らしく、
考えながら
大人になっていきなさい。

学校、
お疲れ様でした。

二人の食事は
洋館に用意してあります。

お行きなさい。」


「はい!」



海斗が
待ってる。


僕、
駆け出そうとした。


そしたら、
咲さんが僕の手を握って
止めるんだ。


「瑞月ちゃん
怖くても
逃げちゃだめよ。」


咲さんは、
さっと離れて
にっこり笑う。



変なの、
咲さん。


海斗は、
怖くて
怖くて大好き。


僕、
怖い海斗に
ドキドキするよ。


えっと
コロシタクなる好きを
もらってるんだ。


海斗だけは、
怖くてドキドキする人だよ。



僕は
海斗に向かって
駆け出した。





海斗が
肩を抱いてくれる。


ほら、
温かい。


優しい海斗だ。



「よく眠っていた。
疲れたか?」


「海斗が寝かせたんじゃない。
疲れてないよ。

すごく元気!」


「そうか。
よかった。」



海斗の手が、
ほっぺを撫でる。

僕、
うっとりする。




「可愛い顔をする。」

海斗の声が、
すごくすごく優しい。


僕、
ん?
って思った。


海斗は
いつも優しいのに、
ん?
なんて、
思ったんだ。







洋館には、
もう食事の支度ができていて、
だーれもいなかった。



温かいシチュー。
海斗がフーフーしてくれる。

僕が
ぱくん
って食べるのを
海斗が
じっと見詰める。


どしたの?
って
首を傾げると、

すっと手が伸びてきて、
口の周りを指で拭き取られた。





海斗が
その指を嘗める。


ズキッてした。


なんか
ドキドキする。





いつも
してもらってるのに、
優しい海斗が
いつもしてくれることなのに…………怖い。





た、たけちゃんは?
………………まだ食べてるよね。





「食べないのか?」

海斗は
いつの間にか
パクバク食べてる。


面白そうに聞かれた。



あ、
食べなきゃ。

あ、
また
こぼしちゃった。



海斗が立ち上がる。



…………来る!!




僕は
目を閉じる。



頭をポンと叩かれ、
ナプキンを被せられた。

「ほら、
かけて。」



僕は、
ナプキンを
襟元に挟みながら
そっと
海斗を窺う。



優しい。
優しいよね。




うん
だいじょうぶ。

僕、
今日は
たくさんあって
ぐるぐるしちゃった。




ちょっと
変になってるみたい。
海斗が
なんか笑ってるもの。




僕、
残りを元気に食べた。



「二人だけだ。
二人で
片付けるぞ。」

海斗が言った。

僕たち、
食器を台所に片付けた。




たけちゃんと拓也さん、
もう来るかな。



「二人は
母屋で伊東と
打ち合わせてる。

高遠は、
警護の臨時採用だぞ。

遅くなるだろう。」


なんとなく
玄関を見ちゃう僕に、
海斗は
そう言った。


海斗が
もう一度
台所に入っていく。






そうなんだ……………。
遅くなるんだ…………。




なんだか
不安。


おかしな僕。
海斗と二人なのに…………。






海斗が
ホットミルクを
持ってきてくれた。


トン!

甘い匂い
大好き


「ありがとう!」

思わず
にっこりしちゃう。


僕は
両手でカップを包んで、
ほわほわ上がる湯気に
鼻を突っ込んだ。




すっ


と海斗の指が
僕の唇に
触れた。




あっ…………。


僕は固まっちゃう。


端から端まで
その指が
唇をなぞる。


「柔らかいな。

指だけで想像できるものだ。

お前の唇は、
最高の味がする。」



ほっぺを
なぞられる。


両手になった。


ゆっくりと、
ゆっくりと、


僕の顔を
海斗が触れていく。


「可愛い顔をする。

怖いのか?

俺が怖い?」



怖いよ。
怖いしドキドキする。


こんなに怖いの初めて。



僕は、
海斗を見ていられない。





「飲んでごらん。

お前の大好きな
ホットミルクだ。」


急に
手が離れて
海斗は暖炉の方に行く。


振り返って
壁に凭れる。



黒いスーツのまま、
ネクタイは外してる。


海斗の胸が見える。
鎖が覗いてる。


海斗の石が
そこにある。


ふわっ

石が光る?


光った
光ってる


僕、
感じる。


海斗の石が、
光ってる。





「もう
熱すぎない。

冷めただろう。
飲んでだいじょうぶだ。

可愛い顔を見せてごらん。

お前が両手でカップをもつ姿を見たい。」




僕ね、
言われた通りにした。


「やっぱり可愛い。
お前の頬に
光があたり、

伏せた睫毛が
影を落としている。

引き込まれる。」


海斗の声がする。

ミルクは甘い。

ちょっと不思議な香り。

僕は、

ふらっとする。



「ブランデーが入ってる。

ほんの少しだ。

頬がピンクだ。


瑞月、

気分は?」



ああ…………。

なんだか暑い。

熱くて暑い。





海斗が近付いてくる。
大きな海斗。


大きな海斗が
大きく見える。





「暑いだろう。

脱いでおしまい。」


上着が
脱がされる。


ボタンを外してる。
僕、
僕、
熱い。
熱い。
熱い。




「ほら、
楽になったろう?」



僕、
胸をはだけられてる。
僕の石が、
ぴくん
ぴくんする。



海斗が
僕を見下ろしてる。


「瑞月、

俺を感じるか?」


い、石が
応えちゃう。


「感じてるね。

その顔を見せてごらん。」



い、いや……。
ここじゃ
いや………………。


「誰も来ない。

安心おし。

来るなと

言ってあるんだ。」


僕は、
一枚ずつ
脱がされた。




海斗が
僕の服をまとめてる。
大きな時計が見てる。


海斗は
振り返って微笑んだ。


「嬉しいよ。

お前は

もう

感じてる。

狂ってくれる約束だろ?」


海斗が見てる。

海斗が見てる。



頬が熱い。
唇に指が残る。
残る感触に
体が………………燃える。


ふっ


糸が切れて
暗くなっていく。


海斗の腕が
僕を抱き止めた気がする。


僕、
喜んで……る?

僕、
悦んでるの…………?


真っ暗になる前に
ちろちろと燃える翠が見えた。