黒猫物語 邂逅2
NEW! 2016-10-14 14:49:13
テーマ:黒猫物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。









トムさんが
後ろによろけた。

お部屋のドアは
葉っぱやお鼻を彫った木でできてる。
とっても重そうだし、
なんか固そう。


トムさんは、
腰を折って
お鼻を押さえる。



「トムさん!!」

いつも見上げてるトムさんが、
低くなっちゃった。

僕、
トムさんの背中を
抱っこした。


だ、だいじょうぶ?






「西原、
どうした?」


……え?



「ぶつかったようですね。

鷲羽さん、
いきなり開けては
危険です。」


え?


「済まなかったな、西原。

避けられると思い
油断した。

次から気をつける。」


海斗!
来てくれた!!


あ……どうしよう?


僕、
僕…………海斗に感じてる。


熱い

熱い

せ、先生が来てくださったのに…………。



僕、
海斗が欲しい。


ご飯食べたら一緒って
思ってたから
海斗がいなくなっちゃって
びっくりしたんだもん。


「訓練不足でした。……」


トムさん、
お返事してる。
だいじょうぶみたい。





僕、
だいじょうぶじゃない。

こんなに
こんなに欲しくなる。




海斗がいる。
海斗がいるだけで
いいはずなのに。



ううん。
側にいなくても
海斗に満たされてたはずなのに。



「では、
私は、
西原さんと高遠さんに
話をします。

場所をお借りして
よろしいですか?」


先生、
僕……いなくていいの?

僕は
先生を見上げる。





先生がにっこりする。



先生の手が上がる。
僕を探してる?


僕、
先生の手を握った。
もう片方の手が、
僕の頬に触れる。



流れ込む。
優しい気持ちが流れ込む。


先生の手は
たくさん
おしゃべりする。



先生は分かってる。
僕の気持ち、
分かってるんだ。


「気になることが
あるみたいだね。

それはね、
きっと
君には
とっても必要なことだ。

正直に伝えてあげなさい。」


先生は
小さな声で
僕に囁いた。


「西原!
任を解く。

水澤先生がおいでの間、
お前は生徒だ。

高遠!
……頼む。

瑞月は連れていく。」


海斗が言った。

僕……連れて行かれた。





ああ、
綺麗!!


お日様がキラキラ
水面に反射して眩しい。


池の畔。
夢の中に戻ったみたい。
海斗が
お伽噺の挿絵みたいな服着てた…………。



海斗は
僕にライダースーツを着せた。
僕たち、
秘密の花園に来たんだ。



ここ、
暖かい。

ぽかぽかする。


もう
桜は終わってた。
お外は
まだ咲いてないのに。


お庭を進んだ。
こんもり緑が広がった。


そして、
池があったんだ。



僕たち、
池の畔にいる。


海斗は
ずっと喋らなかった。

僕も
何も聞かなかった。

僕たち、
黙ったまま
ここまで来たんだ。



二人で池を見詰めた。

「勾玉の最初の主たちは、

池の畔で
出会ったそうだ。」

海斗が
口を開いた。



海斗が
僕を脱がせる。


僕、
生まれたまんまで
お日様を浴びる。


僕が
海斗を脱がせる。
海斗の裸、
なんだか眩しい。


僕たち、
素っ裸だよ。


足下には
柔らかい草むらがある。

水辺には
白や黄色のお花が咲いている。

木の幹は
どれも
なんだか柔らかそう。



呼んでる。
みんな、
僕を呼んでる。



海斗が
ひざまづく。



僕は
清められる。



海斗が
僕を
清めてる。

…………


足が震える。




日差しが
僕を暖めて
風が
そよそよ肌を撫でてく。




ああっ…………。


僕、
お日様にいかされた。

いかされて、
膝から崩れた。



海斗が
僕を
抱き止める。


僕……感じる。
海斗が
僕に触れている。


優しく
指でなぞっている。


僕、
ピクピクってする。


開きたくて
開きたくて
ピクピクって待ってる。




「長は、
余りに華奢な体を案じて、
その花に蜜を塗ったそうだ。

その花の蜜を。」


僕、
赤ちゃんみたいに
草に抱かれてる。




海斗が立ち上がる。




お日様が海斗を照らしてる。
なんて綺麗!
光が服みたいに海斗を包んでるよ。


お日様は
近づくものを焼いちゃうんだよね。


僕、
焼かれたい。




僕、
きっと
死んじゃう。


お日様は
強くて強いもの。



僕、
きっと………………。







ああっ

お日様が
僕に入っちゃった。



熱い
熱い
熱いよ。




何も考えられない

感じてるだけ
感じてる。





僕の中に
龍がいるよ。




龍が鱗を煌めかせ
僕の内に擦り付ける。


僕は
悲鳴を上げる。





深くて怖い
熱くて怖い


欲しくて
もっと欲しくて
怖いよ


怖いよ
海斗





あ、
ああ、
僕……抱っこされてる。


抱っこされたんだ。
熱い
熱い柱に
僕‥‥動けない。




海斗の肩に
僕は
頭をのせる。


ピクピク
ピクピク
ってしながら
僕は海斗にしがみつく。




「瑞月、
いい子だ。」



お日様が
風が
草の湿った柔らかさが
僕らを包んでるよ。





海斗が
僕を揺らすと
僕は花になる。


花になって
花びらを揺らす。



僕の声
葉擦れの囁きに
溶けていく。


声も
体も
溶けていく。





お日様が龍になって
僕を溶かしちゃった。


ほら

ほら

もうすぐだよ






僕…………龍に咥えられて
昇っていくんだ。


僕の声が
遠くなる。


勾玉が
ポッ

光って

僕、
光のまん丸の中にいた。






海斗が
優しく僕を見てる。


〝また連れてきてくれたな〟


僕、
小首を傾げる。


〝連れてきたの、
海斗だよ。〟

海斗が
唇を重ねる。


〝いや
お前だ。

覚えておおき。

ここはお前の奥殿だ。

お前が許す者しか入れない。〟





ふーっ

気が遠くなる。


あああああっ………………。


僕の声が
よみがえる。


よみがえって
遠くなる。


僕は海斗の腕の中に
静かに堕ちていった。



海斗

海斗

海斗が僕のお日様だよ。



ああ、
水面が

キラキラ
キラキラ

反射してる…………。




僕の中に

キラキラ
キラキラ

光が満ちるよ。




海斗

海斗

海斗………………愛してる。



画像はお借りしました。
ありがとうございます。