黒猫物語 邂逅 1
NEW! 2016-10-03 20:08:17
テーマ:黒猫物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。









瑞月の回りを
くるくると
黒スーツの男女が回る。


あちらでは
高遠もやってるが、
俺は瑞月の警護をしてるんだ。


セーターを脱いだときは
目を逸らした。

だって
脱ぐって
ドキドキする。


改めてYシャツ着てくれたから
正視できる。



瑞月にサイズがあるのが
不思議だ。

背は
俺が横を見ると
可愛い頭が見える高さだ。


重さは
感じたことがない。
いや
あるんだろうけど、
蝶々が飛んできたみたいで……。


だ、抱きつかれたけど
覚えてない。


腰回りは、
俺がすっぽり隠してあげられるくらいの
細さだ。


肩は、
掴んだら折れてしまいそうに
華奢だ。



す、数字になるんだ。
なるんだなー。


せっせと
書き留めている黒スーツを見ると、
なんだか不思議だ。



天宮補佐が注文をつける。



「パーティーに間に合うように
かっちりしたフォーマルを
お願いします。

あと何着か、
時間はかけて構いませんので
柔らかな感じのものを
お願いいたします。」


「畏まりました。
イメージや色に
ご希望はおありですか?」


「白で一つ
青で一つ
あとは
お任せします。

イメージは花と思います。
プライベートでのそれなりの外出に
着せたいと思います。」


「では、
仮縫いのときに、
幾つかデザインをお持ちします。」


「俺は
これで十分です。

これも申し訳ないんですから。」


部屋の向こうから
高遠が叫ぶ。


「だいじょうぶ。
高遠さんに白やピンクは
着せたりしません。

今回は
こちらの都合で
着ていただくんです。

フォーマルは用意させてくださいね。」



贅沢な奴だ。
こんな申し出、
滅多にあるもんじゃない。


まあ、
彼奴らしいけどさ。
鷲羽が大財閥だって
知らないんじゃないかと思うよ。


高遠に欲得ずくはない。
瑞月とパーティーに出なきゃならないから
大人しくサイズを計らせてる。


分かってるさ。





「咲お母さん
海斗は
作らないの?」


「ちゃんと作りますよ。
総帥は
サイズが変わらない方です。
計り直す必要はありません。」



瑞月は
何となく
ドアの方を眺める。


来ないかな。

来ないかな。


そんな風に
眺めている。


ああ、
切ないな。


総帥のために
君は
舞ったんだよね。



〝トム!
お前は
瑞月ちゃんに
惚れてるんだ〟


マサさんは
言う。


〝でもな、
惚れるにも
色々あんだよ。

ぜーってぇ
手を出せないもんもある。〟


ああ、
分かってるさ。


〝惚れた相手の
何が欲しいかなんだよな〟


欲しいのは
笑顔だ。


マサさん、
俺は
瑞月の笑顔が欲しいです。



「西原さん
朝すごく早かったんじゃ
ありませんか?」


高遠が寄ってくる。

「だいじょうぶです。

お気遣いなく。」


当たり前だろう。
始発だ始発!


マサさんは
言ってくれた。



〝気にせず
出ていけ。

始発は4時あたりだろう。
見送らねぇぞ。〟



「俺、
マサさんちに泊まったこと
ないんです。

羨ましいです。」



「大変勉強になりました。
美味しいお酒でした。」


お前には
まだ早いのさ。
ま、
すぐだろうけどな。



こいつと飲む日が
来るかもしれないな。

なんか
そんな気がした。







仕立て屋チームは
帰っていく。


天宮補佐は
あれこれイメージを語りながら
一緒に部屋を出て行った。



薔薇、
藤、
桜、
蝶々、
…………
妖精みたいな感じでお願いします。




天宮補佐も
まるで〝娘〟をもったみたいな気分で
いるのかもしれない。


どんな服でも、
瑞月は似合う。


何を着ても
俺は
それを見られる。


俺は
瑞月担当警護班班長だからな。
楽しみだ。






瑞月は
とことこ
俺に近づく。


「トムさん
海斗は何してるの?」


心細そうに見上げる眸に
また
ズキズキ
俺の胸は痛む。


「執務室に
おられます。

お忙しいのでしょう。」


「……そう。

そうだよね。」


声が小さい。





ああ、
もうダメだ。


「私が
お呼びいたします!」


「あ、
トムさん!」


俺はドアを開けようとし、
顔でドアを受け止めた。


は、鼻が…………。

の、ノックしたら1拍待てよ!!




「西原、
どうした?」


総帥の落ち着いた声が降ってくる。


「ぶつかったようですね。

鷲羽さん、
いきなり開けては
危険です。」


た、た、担任?


「済まなかったな、西原。

避けられると思い
油断した。

次から気をつける。」



し、知ってたんだ!!
総帥は、
知ってて開けたんだ!!!



ズクンズクン痛む鼻。

忘れるな
総帥は俺がキスしてもらったのを
ご存知だ。

そして、
頭を上げろ!
俺は疚しいものは何もない。



「はっ!

訓練不足でした。
申し訳ありません!!」



画像はお借りしました。
ありがとうございます。