黒猫物語 浮舟の選択 幕間 外出 9
NEW! 2016-08-12 18:18:22
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






「皆さん、
かっちゃんから
大切な話があります。
聞いてください。」



嘘ーー
かっちゃんは喋れないんだよ。
あたしは、
新しい先生
おかしいんじゃないか?
って思った。


サヨちゃん
ねぇ
サヨちゃん


サヨちゃんに
しーーーっ
てされた。




マサさんは
どう思ってるのかな?


マサさん、
校長先生と並んでる。

二人とも
新しいおじさんを見てる。



ああ
声かけらんない。
二人とも
なんか
触れない感じする。





新しいおじさん、
頭が半分白い。
床に膝ついて、
かっちゃんに被さるみたいに
なってる。



あれ?
あれ?
まじで?



おじさん、
かっちゃんの手を握ってるよ。
あたし、
引っ掻かれたんだよー。


うん?

握って……ないや。
なんか
手を被せたまんま
ゴショゴショ動いてる。




あれ、
指文字だよ


サヨちゃんが
小さな声で教えてくれた。


え?
なんて言ってるの?


分かんない。
前に行ってたお宅のご主人、
目が見えなかったから
あんな感じで
なんか話してた。


ふーん
指文字かぁ。




瑞月ちゃん、
あの抜け作野郎の手を引っ張ってる。
ウンショ
ウンショ
………………

ぺたん
ってしちゃった。


可愛い
可愛い
可愛いよねー。


いい子なんだもん。



タケルが
手を握ろうとした。


あああ
お顔、
右向け右!

おてて
ギュッ!

抜け作は
どこまで行っても
抜け作だぁ。


そんな
明後日の方向を見なくても
いいんじゃないの?





「起きろ!
安全野郎!!」


きゃっ
マサさーん
格好いいー




ピョン
って
起きた!
抜け作が起きた!!



起きたよー
サヨちゃん





「西原!
名前呼びして欲しかったらな、

背筋を伸ばせ!

一言も
聞き漏らすな!!

まばたき一つ
するんじゃねぇぞ!!! 」


そうだ
そうだよね、
マサさん


マサさんは
いつも
正しい。


いつも
これが正しいんだ
って
教えてくれる。


私たち、
すごいもの見るんだよね。





「水澤先生、
どうぞ。」


おたか……ううん。
土屋校長先生が、



おじ…………ううん。
ミズサワ先生に、



声をかけた。




ミズサワ先生が、
かっちゃんの肩を抱いて
立ち上がる。




かっちゃんが
瑞月ちゃんに向き合う。




先生が
両手で
かっちゃんの両手を包んであげる。




かっちゃんの指が動く。

先生が声にする、

「ゴ」「メ」「ン」「ナ」「サ」「イ」

声が並んだ。



言葉になった。



「ごめんなさい」

言葉になったよ。



わあああああああっ

教室が
声で
ぐっちゃぐちゃになった。



でもね、
なんとなく
静かになっていった。


だってね、

ミズサワ先生は
全然変わんないんだもの。


まだ?
まだあるの?



私たち、
いつの間にか
静かになってた。




先生は
まだ先まで行くつもりだ
って
分かったから。





先生は聞いた。

「瑞月君、
胸に何かかけてる?

緑色だそうだ。」




瑞月ちゃん、
びっくりまなこだ。

私もびっくり。
見えないよ。




みんな
瑞月ちゃんに
注目したわ。




瑞月ちゃん、
不器用にゴソゴソする。

ボタン一つ
ボタン二つ





引っ張り出した。
ペンダント……………………。




…………すごい。
ほんとに緑。
透き通った緑。
ヒスイ
ヒスイだよ。



アキちゃん
アキちゃん
翡翠だよ
翡翠。


サヨちゃん
興奮してる!


私も
興奮しちゃう!





ざわざわざわ
って
した。

先生は
それで
分かったみたい。




瑞月ちゃんに
尋ねてる。

「ああ
見えないはずなんだね。

見えたそうだ。
信じるかい?」




瑞月ちゃん、
大興奮。


両手で
しっかり
ヒスイもってね、

キラキラの目で
先生を見上げてるの。



「信じます!
すごく思いの籠った石なんです。

信じます!!

えっと
かっちゃんは
とても助けてほしかったり
しましたか?」




瑞月ちゃん、
そのヒスイに
助けてもらったのかな?



瑞月ちゃんの
可愛いとこはね、

ちゃんと
かっちゃんに聞くところよ。



助けてほしかったりしましたか?


かっちゃんを覗き込んで
かっちゃんに聞いてたの。


そして、
そして、


かっちゃんが、
かっちゃんが…………コクンした。




かっちゃん、
聴こえてたの?


かっちゃん
みんなの声、
聴こえてたの?


もう
誰も
わあわあしない。


私たち、
先生を見た。


先生が
まだ
先に進むんだもの。


まだ
私たち、
進めるみたいなんだもの。




「かっちゃん
君は
声が出せる。

そうだよね。
声を出せずにいた君に
お母さんは
指文字を教えた。

でも、
声は出せるんだ。」




先生が
かっちゃんの手を
自分の喉にあてた。

アーーーー

アーーーー

先生は繰り返す。




瑞月ちゃん、
瑞月ちゃんが

アーーーー
アーーーー

って始めた。




サヨちゃん!
サヨちゃんが
うん!
ってうなずく。




アーーー
アーーー

教室に

アーーーーー

が響いてく。





瑞月ちゃん、
抜け作西原に
アーーーー
してる。




抜け作西原が
下向いた。


あれ?
あれ?

アー-ー
してる?




マサさんが
西原をどやしつけた。

「背筋を伸ばせ!」

アーーー


西原
声でかっ





かっちゃんが
かっちゃんの体が揺れてる。

前に
後ろに
揺れてるよ。






そしてね、
思いっきり後ろに揺れたんだ。




私たち
ぴたっ

止まった。




さっきまで「アー」の嵐だった教室が
じーんとするくらい
静かになった。



聞いたことない
不思議な音?
ううん
声がね、
声が
生まれた。




コーンーニーチーハーーーー

かっちゃんのコンニチハが
全力のコンニチハが
教室をびんびん震わせた。


かっちゃんの声が
生まれた。



そしてね、
私たちの教室が
緑の
透き通った光にね
包まれたの。


かっちゃんが
緑の光に
優しく抱かれたの。


タケルがかっちゃんに

コンニチハー

かっちゃんが返した。

コンニチハー


私たち始めた。

コンニチハー

かっちゃんが返した。

コンニチハー

コンニチハー

コンニチハー


教室に「こんにちは」が谺して、
瑞月ちゃんが
西原にニッコリして手を繋ぎ、
かっちゃんの手を握ってブランコみたいに
振っている。


私たち、
みんな手を繋いだ。


校長先生も繋いだ。

授業を受けた
みんなが繋いだ。



水澤先生はね、
手を繋ぐ私たちを
静かに見ていた。


先生、
私たち
勉強したよ。



私たち、
幸せになった。


この授業で
幸せになった。




キーン
コーン
カーン
コーン
……………………。



パン!
って
ミズサワ先生が
手を叩いた。


「交流を終わります。
号令!」


マサさんが、
誇らしげに声を張り上げた。

きりっつ!!

水澤先生に

れいっ!!!