この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






腕の中にあった愛しい者は、
陽に誘われて
水辺をたゆたう。


その裸身を光が包み
差し伸べる指先に花は花弁を開く。


授かり物


そんな言葉が
自然に浮かんでくる。

お前は
天から戴いた授かり物だ。



「おいで」

俺は呼ぶ。


振り返るお前は
眩しげに
俺を見詰める。


この池の畔にあるお前は
羞じらいを忘れ
その身を隠さない。


俺こそ眩しい。


歩を進める姿

その優美な一足一足に
草の葉までが
光に煌めく。



「海斗、
   すごく綺麗。

   どきどきしちゃう。」


抱き寄せれば
可愛い声が
教えてくれる。


お前は瑞月だ
俺の恋人だと。


唇は甘い。
さやさやと鳴る梢。
お前は
陽に透き通り
俺は神秘に打たれる。



服を着せ、
髪を撫でてやり、
仔猫の愛らしさを戻したお前に
俺は
話さなくてはならない。


白いライダースーツの胸元に
しどけなくはだけたアンダーウェアは
鎖骨の窪みに
隠したばかりの柔肌を偲ばせる。


閉じようとすると、

「暑いんだもん」だ。


天使から
小悪魔へ


忙しい子だ。



「真面目な話だ。
   いい子で聞いてほしい。

   なまじ服を着てると
   ちらちら見えるお前の肌は
   目の毒だ。」



「じゃ、脱ぐ?」


ポン

頭をはり、
さっさと胸を閉じさせた。




幸せな仔猫。
その幸せをそのままにと
俺は願う。



傍らに座らせ、
その肩を抱く。


水辺は
優しい光に満ちている。


水面の煌めきに
お前は
もう一度
天使に戻っていく。



「池の畔で出会う前、
   月の勾玉の主は
   闇の巫だったそうだ。


   この勾玉は
   ぬばたまの闇の色をしていたと
   書かれている。」


「その人、
   海斗に出会ったんだね。」


「そうだ。」


「出会って幸せになった。」


「………………二人は
   二度と離れなかったそうだ。」


「僕たちも
   離れないよ

  僕、
  離れないもの。」


俺は
肩を抱く手に
力を込めた。


「伝説は伝説だ。

   勾玉は〝相応しい二人〟の証だから、
   伝説に似たことも
   起きるだろう。

   だが、
   同じになることに意味はない。

   
   俺たちは
   今
   生きている。

 

   今を
   生きよう。

   今、
   互いに愛し合うことが
   勾玉の意に叶うことだと
   俺は思う。」



その眸が
ふと
伏せた瞼に
隠される。


「……うん。

  あのね、
  でもね、
  勾玉が光ると
  ほっとするよ……。

  ああ、
  繋がってるって安心するんだ。」


「光らせているのは、
  お前だ。

  俺たちが
  繋がってるから光る。

  忘れるなよ。
 
  今のお前が、
  勾玉に火を灯す。
  今、
  二人あることが光となるんだ。

  勾玉には
  古の記憶も残っているらしい。
  それは
  お前の記憶じゃない。

  揺れなくていい。」


肩が
微かに震える。

昨夜の夢は
覚えていないはずなのに
その体には
刻まれたのだろうか。


「…………あの、変な人?

  僕は自分のものだって言ってた。」



声に
力を込める。

もう
この光の森に
お前は満たされているはずだ。


「〝あなたなんか
       知らない!〟

  その言葉が
  お前を強くしたんだ。

  お前は
  俺のものだ。

  古の巫も
  長と出会い
  再び闇に戻ることは
  なかったそうだ。

   お前を揺らそうとする幻に
   お前は言ってくれた。
   〝知らない〟
   俺は嬉しい。」


ふわり

瑞月の華奢な腕が
俺の首に絡む。

柔らかく
その胸は俺の胸に重なる。



確かな心音
今を生きる証だ。
二人のそれが響き合う。


「僕、
  負けないよ。

  僕、
  海斗のものだもん。

  何回あいつが来ても
  同じだよ。

  ちゃんと海斗のとこに
  戻るからね。」


いや

二度と俺の目の前で
瑞月を苦しめさせたりしない。
幻め


何をしようと
お前には
瑞月を辱しめることはできない。


幻にできるのは
夢に惑わすことだけだ。


俺は
もう
覚悟した。


次はない。




突然
小鳥が
舞い降りてきた。

瑞月が手を伸べる。


小首を傾げ、
小鳥は再び舞い上がる。


その一瞬に
百千鳥
囀ずる声に池畔は満たされた。


微笑みながら
見上げる天使
……………………。

お前は小鳥と木々と言葉を交わす。



俺の伴侶
俺の魂
俺の…………巫よ

守り抜いてみせる。

画像はお借りしました。
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