黒猫物語 記憶15
NEW! 2016-03-06 19:51:55
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







頬を横殴りにはられ
瑞月はベッドに倒れた。


佐賀さんの声が響く。

「高遠も俺も
   お前のウソはわかってる。

   俺たちは愛してるんだ。

   俺たちに何をさせようとしてるんだ?!」




瑞月はじっと動かない。
泣きもしない。
打たれた頬もかばわない。


「……教えてよ。

  もう疲れたんだ。」





瑞月が話してる?


無機質な
感情のない声。

佐賀さんは動じない。





ふらっ
と瑞月の姿が揺らぐ。

身を起こす
その動きに眩暈を感じた。





4年間見てきた。
誰よりも
瑞月を知ってる。

感情を出すのが苦手な瑞月。
ゆっくりと聞いてやると
ポタポタと涙を流す瑞月。
可愛くて手のかかる俺だけの瑞月。





見たこともない瑞月が
鎌首をもたげた。

抱きたい!
これはなんだろう?
ただ抱きたい!

馬鹿な!!
俺、
どうしちゃったんだ?!




真っ白な体が
無造作に投げ出されていた。
本当に
どう扱っても構わない。
こいつは…………平気なんだ。




皮肉に口角が上がる。
華奢な腕が
気だるげに上げられ
髪を掻き上げる。



「僕、
   覚えてない。

    覚えてないけど
    わかってた。


    僕、
    おもちゃなんだ。

     壊れたおもちゃだ。

    そうなんでしょ?」




海斗さんが
静かに応える。



「久しぶりだな。
   俺がわかるか?」


「わかるよ
僕を抱きたかったでしょ?」


「ああ、
   抱きたかった」


「望みが叶ったね

   こいつ
   あなたに抱かれてれば安心なんだ」


「お前はどうなんだ?」


「知らない。
  どうでもいいじゃない。

  あなたも
  構わないでしょ?

  僕を抱けるんだから。」



「俺は
   抱けなくても構わない。

   高遠も
   同じだろうな」



「まさか!
   たける
  抱きたいでしょ?」


「抱けなくていい!
   瑞月!
   お前
   どうしたんだ?!」



からかうように
瑞月が
眉を上げる。


「わかるもの

   二人とも
  今
  僕を抱きたくて
  おかしくなりそうじゃない。

   抱かせてあげるから
   もう
   終わりにしてくれないかな

   疲れちゃった。」



佐賀さんが
そっと
瑞月に手を伸ばす。

瑞月は
嬉しそうに
佐賀さんに絡み付く。

静かに
ただ静かに
佐賀さんは動かない。


瑞月の表情が変わる。

その腕を逃れようともがく。

佐賀さんは動かない。


「放せよ!
  抱く気がないなら
  用はないだろ?!」



佐賀さんは動かない。

「たける!
  僕をあげる!

  ねぇ
  あげるから!」



瑞月が
俺に
助けを求める。


「瑞月、
   いらない。

  いらないよ。」




瑞月の目が
いっぱいに見開かれた。

全身で叫ばれた。



「嘘だ!!

   うそつき!!

   欲しがれよ
   欲しいくせに!!」



血を吐くような
瑞月の絶叫



佐賀さんが
瑞月の背を優しくさする。


「いい子だ
   いい子だから

   俺の瑞月
   聞いてくれ。

   お前と生きたい。
   生きたいんだ。」




背を反らし
今度こそ
俺たちに響けと叫ばれる
瑞月の思い。


「止めろ!
   僕なんか…………!

   誰も欲しくないんだから…………。」



瑞月が
いつの間にか
涙を流している。



「僕、汚れてる。
   汚れてるんでしょ?

   みんな
  知ってるんでしょ?

  汚れてる………………。」



譫言のように
唇から洩れる言葉。

眸が
力を失ってる。
泣いている瑞月が戻ってきた。



「瑞月、
   愛してる。

   お前がお前だから
   愛してる。

   生きようとさせたかった。

   だから
   気になったんだ。

    抱きたいと思うより
   生かしたいと思ったんだ。

    生きようとしてくれて
   俺は幸せだった。

    俺は愛してるんだ。
    お前が生きていてくれて
   どんなに
   感謝しているかわからない。

   お前のお母さんに
   たけるに
   お前と生きて出会わせてくれた全てに
   俺は感謝してる。

    愛してる
    愛してる
   愛してるんだ。

   お前が
   お前の全てがいとおしい。

    何があったかなんて
    どうでもいいんだ。

    お前が
    どんな顔を見せても
    俺は変わらない。

   お前が愛しくてたまらないんだ。」



瑞月の体が
佐賀さんの腕の中に
静かに収まっていく。



瑞月が
そっと佐賀さんを見上げる。

佐賀さんの頬に
瑞月の手が伸びる。



「海斗……
   泣いてるの?」

不思議そうに見上げている。



「ああ」

佐賀さんは
涙を隠そうともしない。




「どうしたの?」

瑞月は
本当に不思議そうだ。




「お前を愛しすぎて
   辛いんだ」

佐賀さんは
ただ
ただ優しく応える。



瑞月は
恋人の腕の中で
戸惑っていた。



「…………僕も愛してる。
   愛してるよ。

   僕、
   どうしたの?

   たける
   どうしたの?

    二人とも
   どうしたの?」



まるで
魔法を見るようだった。

俺は
初めて
もう一人の瑞月に出会った。



たぶん
俺が
作ってしまった瑞月に。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。