黒猫物語 揺れる 〈海斗 〉
NEW! 2016-02-19 07:50:24
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。








お部屋に戻った。


咲さんは
僕が教科書を開くのを見届けて
出ていった。

〔頑張るんですよ
   洋館にいます。

   あとで来ますからね〕



咲さんは
とても綺麗だ
にっこりすると
花が咲くみたいに明るくなる。

髪は結い上げて
着物に割烹着、
昔の映画のお母さんみたい。



僕、
このお部屋に入るの
まだ2回目だ。
僕の部屋なんだよね。

咲さんが入らないで済むようにしてた?
………………お台所で僕が泣いたから?




見回すと
やっぱり青い海だ
海に浮かんでるみたい



『まるで人魚姫だな』

海斗の声がする。




人魚姫…………。
海斗が人魚姫って言った。

『お口はどうした?』

体が熱くなる。
海斗が入ってきたみたいに
キリキリと締まっていく自分がわかる。
海斗…………。



僕、
海斗にときめいて
何も言えなくなるんだもの。

『愛してる』

……………………

思い出しちゃう。
や、やだ
赤くなっちゃう。





暴れて
海斗から逃げようとして
キスされた

強い腕
熱い舌
溶かされて堕ちちゃった




僕、
抱かれた。


海斗が
僕と溶け合っていく。
どこを触られても燃え上がり繋がっていく。
海斗しか感じない時間




なのに
見たんだ………。




上り詰めて
真っ白になった世界に
海斗が見えた

海斗は
背を向けてたんだ

向こうにね
女の人がいた
海斗は
その人しか見ないんだ




僕、
海斗
海斗って呼んだ。

海斗は振り向いてくれなかった。



泣きながら呼んだ。

でも
海斗は
振り向かずに
真っ直ぐに
その人のとこに行くんだ。


海斗は
その人を優しく抱き締めた



僕の胸
バンって潰れた。






僕のこと、
もう見えないの?



僕、
海斗の一番じゃなくなったの?



海斗が違う人を好きになっちゃった。

涙が止まらなかった

泣いて

泣いて

泣いて……





気づいたら
海斗が
僕を抱き締めてくれてた



愛してる
泣かないでくれ

海斗が囁いてた。




ああ
海斗………………。



僕を抱いて

海斗に会いたい。
海斗の顔が見たいよ。




海斗
ここ
通らないかな。

伊東さんのとこに行くんだよね。
ここ
来てくれないかな。




窓に駆け寄る
レースのカーテンを開く.







あっ………………海斗!!

海斗が窓を見上げていた。

海斗が
シーって唇に指を当ててみせる。





僕は思わず両手で口を押さえる。

海斗が
手真似で窓を開けるように言う。




急いで開けた。
次の瞬間
開けた僕の横に
海斗が飛び込んでいた。

すっと窓を閉め
カーテンを閉じる海斗。




もう
海斗に抱き締められてる。


「だめだよ
    咲さんが来るよ

   んっ…………。」

キスされて
僕はくらくらする。




『お前の顔が見たかった。
   見たら
   触りたくなった。

   我慢できない』




嬉しい
嬉しい海斗

僕、
もう溶けてるよ
ねぇ海斗
体が熱いんだ




ギュッ
て腰が引き寄せられる

いや
海斗にわかっちゃう




『欲しいんだな?』

欲しい
欲しいよ



『人魚姫
   返事を聞かせてくれ

   体は応えてる
   お口で言ってごらん』




目が眩む
欲しくてたまらない
でも…………

「行かなくて
  …………いいの?」




首筋から
海斗が僕を溶かしていく。
僕…………震えてる。



耳元に囁かれる。

『構わない。
   俺はお前のトレーナーだ。

   お前の側にいるのが仕事だ。

   さあ
   どうして欲しい?』




海斗も僕が欲しいの?
僕みたいに?


頭が白くなって
膝ががくがくする。



あ…………


また……


見える…………。


「あの人…………見てる………………」




『誰もいない
   逃がさない

   さあ
   どうして欲しいか
   言ってごらん

   ほら』

海斗の声が遠くなる。





海斗…………海斗が背を向ける。



いや

行かないで


「行かないで」




涙が
涙が溢れる




『どうした?』


海斗…………?

海斗が

海斗が行ってしまう


「海斗が行っちゃう」



行かないで


行かないで!



行かないで!!





瑞月!!


海斗………………?

来てくれたの……………………?





僕…………気を失ったみたい。

目を開けたらベッドにいた。
咲さんが覗きこんでる。



〔ちょっと待ってるのよ〕

咲さんが出ていく。
海斗がいない。




咲さんが
お盆にマグカップを載せて
戻ってきた。


〔ホットミルクよ。

  甘いものが
  幸せを連れてくるの。

  瑞月ちゃんに
  幸せが来ますように

  ね
  飲んでちょうだい〕




両手に
咲さんが
カップを握らせてくれた。

一口飲んだ。


あまーい
あったかい



〔いい子ね〕

咲さんが
囁く



咲さん
泣いてる?



「……ごめんなさい
   僕が
  心配させたの?

  咲さんが泣いてる」




咲さんは優しい。

〔いい子ね
   何でもないの
   瑞月ちゃんはいい子よ

   ゆっくり
   飲んで
 
   落ち着くわよ〕




僕は飲んだ。

小さな声で聞いた。

「海斗は?」





咲さんが頭を撫でてくれる。

〔もう行かれましたよ
   心配していました〕




僕はうったえる。

「海斗が
   女の人と行っちゃうの」




咲さんは
静かに話してくれる。

〔佐賀さんは
   ここにおいででしたよ

   咲の目を盗んで
   瑞月ちゃんに
   会いに来てたんですね〕


「そうなんだけど…………。」



咲さんの声が
とても
とても
静かになっていく。

遠いところを
咲さんが
見詰めているみたい



あの人のこと
咲さんも見てるの?

〔瑞月ちゃんには
   見えるのね

   大好きな人だから
   見えちゃうのかもしれないわね

   あなたは佐賀さんの天使だわ〕



「やっぱり
   海斗は
   好きな人がいるのかな」



〔いえ
  今は瑞月ちゃんしか見えてないわ〕


「…………ほんと?」



〔本当よ〕



「じゃあ
   …………道子さんなの?

   海斗の一番は
   本当は道子さんなんだ。
   それはわかってる。

   泣いたりして
   僕がいけないんだよね」



〔佐賀さんの一番は瑞月ちゃんよ
   疑ったら
   佐賀さんが可哀想だわ。

   ただね
   佐賀さんは道子さんを失って
   ちょっと
   道に迷ってたの

   おじいさまも
   私たちも
   佐賀さんが戻ってくるのを
   待ってたのよ

    瑞月ちゃんが
    佐賀さんを
   もう一度生きる気持ちに
   させてくれた

   そしてね、

   もう一度生きて
   誰かを愛せるように
   道子さんが
   呼び掛けてるんだわ

   心配しないで
   ちゃんと生きることを

   佐賀さんは考え始めてる

   あなたと生きるために
   きちんと向き合うことを
    始めようとしてるところなの

    瑞月ちゃんは
   信じて待ってあげなさい〕




…………よく分からない

分からないけど
海斗が苦しんでるんだね…………。



なんだか眠い
ちゃんと寝たのに………………。



〔お休みなさい
   いい子ね

   あなたは天使よ
   佐賀さんは
   あなたに救われたの

    忘れないで
    あなたは
   このお屋敷を生き返らせたわ

    可愛い天使さん
    泣かないで
    海斗は
    あなたのものだから〕



咲さんの声が遠くなる。
甘くて温かいホットミルク


海斗
海斗は
いなくならないよね
いなくならないよね




お布団が暖かい

咲さんが頭を撫でてくれてる…………


海斗…………………………愛してる…………。


僕はいつの間にか眠り込んでいた。




画像はお借りしました。
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