黒猫物語 カナダ滞在14
2016-02-01 00:30:41
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







ムトウサン
ムトウサン



ん?
明るい……



「武藤さん!
   おはよう!!」


面白そうに瑞月が覗きこんでる。





き、綺麗な顔だなぁ……。

い、いや
大人が子どもに起こされちゃったよ。

(お、おはよう)






くしゃっ、
と寝癖がついた頭が可愛い。
笑顔の可愛らしさは
とんでもない。




「武藤さんて、
   いつも
   なかなか起きてくれないね。」

ベッドに手を組んで枕にし
頭を載せる瑞月ちゃん。




ふっくらした唇が
ほのかに赤い。
キスしようと思えば
簡単だ。





もう少し用心してくれなきゃ。
佐賀さんがレイプ……。

なんか……
状況がわかる気がする。




(あのさ
   佐賀さんがレイプって
   言ったけど…………。)



「違うよ。
   僕、抱いてって言ったもの。

   海斗はしないつもりだったから
  あんな言い方するだけだよ。」





だろうな。
佐賀さんが無理矢理抱くわけがない。


(佐賀さんは
    瑞月を
   愛してるものね。)


「うん!」





この会話、
彼氏がいる女の子と
寝室で
二人きりでしてたら
大変な気がする。



ベッドはあるし
パジャマだし。




(起きるよ。
   瑞月も着替えなよ。)

瑞月は着替えに
部屋に行ってくれた。





やれやれ
しっかり睡眠は取ろう。
夕べは考えすぎた。
瑞月に起こされるのは心臓に悪い。




佐賀さんはタフだ。
あらためて思う。
タフな人だ。




さあ
やれることを
しっかりとだ!

俺はキッチンに向かった。




カチッ
玄関のドアが開き
瑞月のはしゃいだ声が聞こえる。

浴室まで張り付いていき
ドアを閉められて終了ね。




あれ?
瑞月が戻らないな。
ドアの前で待ってるつもり?

浴室から佐賀さんが出て
瑞月が張り付いたな。
で、
二人で居間にやってくるか。





(お早うございます!)


『お早う
   準備したのか。』


(はい!
   材料は洗うものは洗って
   揃えました。

   食器はボードの上です。)



佐賀さんが褒めてくれた。

『お前は部下としても優秀だよ。』


(ありがとうございます。
   何もできませんが。)


『できることが分かっていて、
   それをやれる。

   それが大事だ。

   できることは
   いずれ増えていく。』




不思議そうに見上げていた瑞月が言った。


「海斗、
   なんだか偉そう。」


(佐賀さんは
   社会人として大先輩だ。

   おじいさんのお屋敷では
   警護のチーフだったんだよ。

   褒められて嬉しいよ。)




佐賀さんが料理にかかり
瑞月と俺は
ソファに収まった。



(瑞月は
  いつ
  佐賀さんが大切な人だって
  気づいたの?)


「…………秋だよ。」


(ふーん
   出会ったのは?)


「夏。
   カナダに来たとき」



(佐賀さんに
   ビビらないのは
   瑞月くらいだって
   佐賀さんが言ってたよ。

   怖くなかったの?)


「僕…………
   あんまり覚えてない。」


(佐賀さんのこと?)


「ううん。
   全部。
   僕、どうしてたんだろう……。」



(最初は
   覚えてないことが
   多いんだね。)



「………うん。」



(秋に何かあったの?)





瑞月は
ゆっくり話し出した。



「僕、
   死ねると思って…………
   待ってたの。」



(何を待ってたの?)



「ナイフが光って……
  僕は刺されるんだって思ったの。」



(刺されそうになったんだね。)



「うん。
   ああ、死ねるなー
   これで終わるなー
   って思った。」




(ナイフを待ってたんだ。)



「うん。」



(どうなったの?)



「海斗が
   僕の頭からかぶさって……

   海斗の血がね
   僕の顔にかかったの。

    温かくて
   びっくりした。」



(それから?)



「海斗が
   走れって言ったの。

   後ろを見るな
   走れって言った。」



(走ったの?)



「うん。
   走った。

  …………木の下でじっとしてたら
  海斗がきてくれた。」



(よかったね。)



「僕、
   本当に
   後ろを見ないで走ったんだ。

   血を流して助けてくれて
   それなのに
   後ろを見ないで走るって
   ひどいでしょ?」



(後ろを見ないで走れ!
   ってね、

   大切な人に言うんだよ。)



「……なぜ?」



(絶対に助けたいから。
   自分の命より大切な人だからだよ)



「……一人で助かるのずるくない?」



(助けたいのに
   どうしてずるいの?

   瑞月を助けたい。
   瑞月に生きてほしい。
   自分の命をかけて
   生きてほしいと願ってるんだ。

   瑞月も
   佐賀さんの気持ちがわかるから
  走ったんでしょ?

  生きなきゃって思ったんじゃない?)



瑞月の目から
涙が溢れた。


「うん。
   生きなきゃって思った。」




瑞月の涙が止まらない。

佐賀さんが来た。
瑞月を抱き寄せる。

俺は居間を出た。



後ろを見るな
走れ!

瑞月のキーワードは
たぶん
これなんだ。




瑞月
君は大切な人なんだ。
自分の命より君を大切に思う人がいた。
だから生きなきゃいけないんだよ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。