黒猫物語 カナダ滞在 8
2016-01-28 23:41:18
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







佐賀さんは車を出した。
瑞月はきょとんとする。



「僕、
   もう電車で平気だよ。」



『お前の口が心配なんだ。』




ああ、
すごくわかる。
瑞月に説明は難しいな。




「……僕、どこか変?」

俺は
焦ってフォローした。



(そんなことないよ。
    車なら
    色々相談できるでしょ?

    俺も瑞月とたくさん話したい。
    車が有り難いな。)




瑞月が
確かめるように
佐賀さんを振り返る。

「喋れるから?」



佐賀さんが
きっちりと宣言する。

『そうだ。
   ……瑞月、
  俺はトレーナーだ。
  忘れるなよ。』




あっ、
と瑞月は厳しい佐賀さんの顔に
しょぼんと俯いた。


「は、はい
  ……佐賀さん。」





次の瞬間に
佐賀さんが瑞月を抱き寄せる。
熱い囁き。

『まだ海斗だ。』




で、
キスだ。
ふ、深い。
みるみる瑞月が潤されていく。




「海斗……。」

唇が離れ、
仰向いたまま
目を閉じて
瑞月は囁く。




佐賀さんが
瑞月を
満たしている。



何だろう
この感覚は?




恋人って
意外に
ここまで近くはない。


もっと隙間があって
その隙間に
スリルも甘さもあるものだ。

夜を共にする姿を覗いても
ここまでの感覚はないだろう。




あまりに剥き出しだ。

が、

なぜかただ見詰めてしまう。

おそろしく必然性がある。
純粋すぎて美しい。




瑞月の顔をそっとはさみ
佐賀さんが言い聞かす。


『車を降りたら佐賀さんだ。
  ……いいな?』


「うん」


『恋人の話はしない。
  チームメイトにもだ。』


「うん
  ……聞かれたら?」


『俺に振れ。
  俺が答える。』





で、
練習場だ。
雪は綺麗によけられている。



広い。
さすがカナダだなー。

今朝は
この空気に
厳しく鍛えられたが、
凍てつく空気は清々しいまでに冬だ。






瑞月と俺を先に降ろして
佐賀さんは駐車場に車を移動する。




(瑞月、
   佐賀さんは…………。)


すぐに戻るからね。
そう
言おうとした。




言葉が止まった。




瑞月は
普通だった。

えっと
普通だった。




綺麗な子だよ。
変わらない。
でも
違う。



だってフツーだよ?!
頼りなく佐賀さんを求める
幼い少年はいなかった。




(あ、
   えーと
   佐賀さんを待たなくていいのかな?)



瑞月は答える。

「駐車場は別の入り口があるんだ。
  平気だよ。」




とことこ歩き出す。
うーん可愛い。
可愛いのは可愛い。




「武藤さんは
   挨拶に行った方がいいよ。

   おじいちゃんが
   話はしてあるんだって。

   みんな
   マスコミの人は
   挨拶してるよ。」




中に入ると
瑞月は
事務所の方向を指す。


(瑞月はどうするの?)


「ロッカールーム」



ふ、ふーん。
あの1週間は
佐賀さんに見せるんだの一念しか
感じなかった。



ただ
怖いほどに
何時までも繰り返す練習に
驚いたんだけど……。




俺は挨拶を済ませた。
瑞月の言うとおり
話はついていた。




俺はリンクに降りていった。
瑞月が
同じ年頃の少年少女に混ざっている。


瑞月は
やはり目立つ。
一際美しい。
それは
流石に変わらない。





でも違和感がないんだよなー。

美術館
水族館
動物園
空港
………………。

大変だったよ。
もう
隣にいてやばかった。

非現実的って
きっと
こういう感じだって思ってた。




誰?
誰その子?
天使?




浮いて浮いてしょうがなかった。
瑞月が浮いてない。
浮いてないことに感動してしまう。




何か聞かれてる。
瑞月は
英語はあまり話せないそうだが、
どうしてるんだろう。




近づく。
瑞月が手を上げる。
皆に聞かれ

「トモダチ」

と答えてる。





口々に
ハーイ
と声を掛けられる。




サガと聞こえてきた。
佐賀さんはどうしたと聞かれてる。


女の子だ。
「チュウシャジョウ」
と聞くと、

佐賀さんがステキだ。
二人は本当に恋人じゃないのか
一緒に寝てるんだもの
信じられない

と続く。
そうだね。
信じなくていいよ。





瑞月が

「ボクハ、ヒトリデネテルヨ」

と答えると




本当に?
と女の子は嬉しそうになる。



うん。
確かに
寝るときは一人だった。




どうしたの?
二人で寝てたんでしょ?
と聞かれてる。




いや
瑞月、
そろそろ危ない。




まさか言わないよな。
おじいちゃんに
しちゃダメって言われたとか。





(瑞月、
  佐賀さんは……)

俺は止めようと声をかけようとした。





『俺は
   こいつと寝てる。』




あ、
佐賀さん来たんだ。

…………え?

ええええええええっ?!





…………さ、佐賀さん

ひどいです。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。