この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






黒猫物語 小景 モニタールーム
2016-01-17 21:21:07
テーマ:クロネコ物語





母屋に隣接して
ある別棟に
佐賀はいた。




モニターが壁面を埋め尽くし
屋敷内を映している。



瑞月が猫と一緒に縁側に
ちょこんと座っているのを
佐賀は
さりげなく確認した。




『武藤が泊まった夜は
   伊東が当直だったな。

   覗いたか?』

佐賀がさらっと訊ねる。



“は?何をでしょう?”

表情を崩さず
元部下は問い返す。





佐賀はにやりとして返す。

『決まっているだろう。
  俺と瑞月だ。』




“覗いてません!”

いかつい顔を真っ赤にし
元部下は答えた。




佐賀は
不思議そうに
尋問を続ける。


『お前、
  顔が赤いぞ。』





馬鹿正直に耳まで赤くして
伊東は口ごもる。

“そ、そうですか?”




佐賀は顔を厳しくして切り込む。


『あの爺さんを警護するんだ。
   死角を作ってどうする?!』




伊東の背筋が反射的に伸びた。

“申し訳ありません!”



佐賀が厳しく問い詰める。

『どう状況を把握していた?』




伊東が必死に答える。

“チ、チーフがおられるところは
必要ないと
 御前が言われまして
 へ、部屋の中までは……”




『中までは……か。』

佐賀が集音装置のボリュームを上げた。




『じゃあ、これだな。』




「海斗遅いね。」

瑞月の声が
甘く響く。





佐賀が止めを刺し
伊東は吐いた。


“い、いや!

ブンヤの部屋のを拾っただけで
 よ、よく聞こえませんでした!!”




伊東の頭をポンと叩き、
佐賀は言った。



『内緒だぞ。
   武藤がいた時以外は
   俺たちは把握されてなかった。

    瑞月が飛び出したとき
    反応がなかったからな。』



“はい!もちろんです!!”





瑞月がコロンと縁側に寝転がった。

佐賀は
目を細めて恋人を覗き見る。



伊東が恐る恐る訊ねる。


“部下を戻していいですか?”




『俺がいる。
  必要ない。』


“戻ってあげないんですか?

 あ、おねだりされちゃうからですか?
 すごく可愛いですよね。”



次の瞬間
伊東は壁に張り付いていた。

喉仏には佐賀の肘がピタリと置かれている。




“す、すみません!!”

伊東は真っ赤から真っ青に色を変えた。




『あの子におねだりされたいか?』


“と、とんでもありません!!”




数秒の間をとって
佐賀は肘を喉元から離した。




真っ青な伊東に
佐賀が笑いかける。

『お前には
   知っといてもらう。

   警護には
  隠し事はしない。』




伊東は目を白黒させている。



『今のチーフが
  お前でよかった。

   勘がいいな。
  おねだりされたら
  俺が一溜まりもない。

  ちょっと
  避難させといてくれ。』




佐賀は
画面の中の瑞月を見詰める。




日差しが髪にあたり
光の輪ができている。

胸に猫を抱え
口を尖らせている。

頬は柔らかく
小さな顎へとつながり
唇はふっくらと
薄紅に色づいている。




そうやって
俺を待っているのか。

すぐに飛んでいってやりたくもあり、
ただ見詰めていたくもある。




佐賀は自制心に気合いを入れた。


まず食事だ。
負けるな。

してもいいが
食べてからだ。




『伊東!
  俺は戻る。
   映像も音響も切るぞ!』

画像はお借りしました。
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