この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







黒猫物語 若紫の反乱 1
2016-01-12 07:14:44
テーマ:クロネコ物語





雨戸が開くまでは
朝は来ない。
雨戸を開けるのは部屋の主。



どうやら
遮光カーテンのように
静かに光だけが流れ込むのは
無理のようね。



瑞月ちゃん
いえ
瑞月が



雨戸を開けたわ。
一枚だけ開いた間隙から差し込む光が
蒲団の足元から畳までを
照らし出す。



佐賀さんは
起き上がり声をかけ
立ち上がる。



雨戸に手をかけて
瑞月は
目を伏せる。



瞬時に凍りつく永遠
横顔だけが
ひどく印象的だった。

浴衣は肩にかかり
帯は解けて足元に流れている。
昨夜の最後をそのままに
花びらを散らしながら
その姿はあった。



次の瞬間に
するっと抜け出していく。
冬の朝だ。
気温は数度にしか達していない。



佐賀さんは
雨戸に走ったわ。

瑞月は
もう
庭石まで駆け寄っていた。
桜の木に阻まれて
立ち止まっている。



『瑞月!』

佐賀さんが叫ぶ。
血を吐くような叫び。



瑞月は振り返り
佐賀さんを見詰める。


唇が動く。
コナイデ


目を見開いたまま
ふわっと
崩れ落ちていく。




葉を落とした桜の木は
舞い狂う花びらに包まれ
しんと
散り敷いた花びらに静まった。



佐賀さんが
飛び降りていく。


抱き起こされ
ぐらぐらと揺れる頭。


駆け戻る佐賀さん
蒲団に包まれる瑞月



屋敷に広がる波紋は
医師を呼び
おじいちゃんが医師と相談し
瑞月は静かに眠らされた。



瑞月は
眠る前に

「練習する」
とだけ
おじいちゃんに
言ったそうだ。



おじいちゃんが
部屋に来て
佐賀さんにそう言った。



佐賀さんは
ありがとうとだけ応えて
ただ黙っていた。



佐賀さんは
黙っている。
食事もとらない。



瑞月は
時間を手に入れたわ。
佐賀さんが決めるんじゃない時間を。
あなたに愛されるんじゃない時間を。



ちょっと強引なのは
仕方がない。
生き人形にはならなかったでしょ。



待ちなさい。
あなたの
若紫は失敗できないんだから。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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