この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






黒猫物語番外編 パーティー3
2016-01-09 23:03:39
テーマ:クロネコ物語






南天の実
金糸銀糸に手透き和紙

扉が開けば
綺羅を尽くした正月飾り。



両サイドからの
お辞儀のアーチの向こうには
既に人で一杯の
パーティー会場が見える。

さっきまで
メモしていた
議員
財界人
華やかに着飾った女性連れで
あちこちで談笑している。

名のある書家に依頼したのか
墨跡も見事な初春の文字が
ステージ中央に掲げられている。

シャンデリア、
御馳走の並んだテーブル、
訓練された身のこなしで
軽やかに動き回るウェイター、
ああ
パーティーなんだ。



俺は別行動だ。
当たり前だな。
頑張りなさい
と言ってもらえただけでも有り難い。

お辞儀の回廊を抜けて
俺は武者震いしていた。



前に主
後ろに狼とお花ちゃんが
並んで会場に入っていく。

また
視線は
一行に集まっていく。

人は皆が見る方向を見る。
そして、
そこに見るべきものがあれば
見続けるものだ。

いやはや
見るべき価値はあった。

こうなると
席次は大事だな。
本日一番の大物が誰かが
よくわかる。

偉い順に
この三人、
いや狼とお花ちゃんに
拝謁を賜ることができるだろう。




主は
鷹様迫らぬ調子で
まず
与党の領袖に向かった。

領袖たる
大物議員は佐賀について
主に尋ねているようだ。


おお御老人のところに……
ボクシングですか……
息子さんを……
それは見込まれたものです。
引き受けて差し上げたら…………


佐賀が何か応えた。


大物の目がお花ちゃんに向いた。
今度は佐賀が説明している。

おお…………
成績は…………
それは素晴らしい……


佐賀は議員に一礼した。
何か頼んでいる。



奥方の顔が
ぱっと明るくなる。
いそいそと
お花ちゃんを連れてテーブルに向かっている。

同時に
奥方の皆様がテーブルに向かいだした。

で、
主と佐賀は
拝謁の続きを粛々とこなし始めた。




すごいな。
可愛いって
凄いことなんだ。

奥方の皆様が
世話を焼くままに
少年の皿には
あれこれ
乗せられていく。

ちやほやされながら
一口食べれば
可愛いわねー

こぼしかけては
ナプキンを巻かれ

焦って食べて咳き込んでは
お水をどうぞだ。




あっちは
あっちで凄い。

主の跡取り最有力候補!
加えて
謎の老人のお気に入りらしい!

権力と財力って
凄い魅力なんだ。

しかも容姿も最高級で
フェロモンが
あれだものなー。

世の中は
不公平なものだ。

父親の傍らには
もれなく
お嬢様が付いている。

お見合い候補選抜選手権開催中みたいだ。
審査員は主か。




さて
お花ちゃんはと。

……ん?
いない。

俺は奥方の皆様に近づいた。

(すみません。
   あの男の子は
   どこに行ったでしょう?)

奥方たちは笑い崩れた。
真っ赤になりながら
トイレに行きたいと
言ったそうだ。

すごいな。
可愛いと
トイレに行くだけで
可愛いー!
の大合唱なんだ。



話だけには
あちこちで出てくる
御前とか御老人
と呼ばれる人物が知りたいが、
どうも
まだ現れていないらしい。

俺もトイレを済ませておこう。



会場を出れば
お花ちゃんがいた。

と近づくと、
少年の向こう側に
小さな小さな老人が
ちょこんと座っていた。

ソファに
可愛いものが
二つ並んでる。


老人は
小さい体に
紋付き袴を着て
真っ白なひげをたらして
頭はぴかびかにはげている。

「疲れちゃった。」

〈わしもじゃよ。〉

「食べたいものだけ食べていいって
   言ったんだ。」

〈食べられんかったのか。〉

「どんどん
   勝手に乗せちゃうんだもの。」

〈わしもじゃ。
   体にいいとか悪いとか
   うるさいんじゃ。〉



俺は声をかけた。
(やあ。
   楽しんでる?)

お花ちゃんが顔を上げる。

やばい。
可愛い。
ふくれてる。

(退屈だよな。
   大人の新年会だもんな。)

思わず機嫌を取ってしまう。



〈わしも退屈じゃ!〉

小さい老人が騒ぐ。
まあ
年をとると
子どもに返るというからな。

(お一人でいらしたんですか?)

〈知らん!〉

(ご機嫌斜めですね。)



〈来たくなかったんじゃもの。〉

「僕も来たくなかった。」

〈そうじゃよなぁ。
   無理矢理連れてきおって〉

「佐賀さんが
   行かなきゃって言うから。」

おやおや雲行きが怪しい。




(怒ってるの?)

〈怒っとる!〉
「怒ってる!」

そんな二人でエコーかけなくても。

(佐賀さんは
   君を誰かに会わせたいみたいだよ。)

大人のフォローというものだ。



小さい老人が
お花ちゃんに聞く。

〈誰に会うんじゃ?〉

「食えないじいさん」

こら、
可愛い顔で失礼な
(御前とか御老人とか
   呼ばれる方じゃないのかな?)

「ううん。
   佐賀さんは
   食えないじいさんって言ってた。

    佐賀さんひどい。
    見てるって言ったのに
    ずっと
    放りっぱなしなんだ。」

〈ひどいのう。
   わしも言ってやるよ。〉

「うん。」

本物の子どもと
子どもに返った老人は
すっかり意気投合しているようだ。




佐賀は
そろそろ心配しているだろう。
老人の連れも
心配しているんじゃないかな。
だいぶぼけている。

二人とも会場に
連れていこう。
そう思った。

じゃあ行くよーと
声をかけようとしたとき
目の前に火花が散って
真っ暗になった。




頭が痛い。
なんだろう。
真っ暗だ。
何か
声が聞こえる。


〈ぼうやは
   佐賀さんが大好きなんじゃな。〉

「うん」

〈じゃ
   佐賀さんも
   ぼうやを好いとるのかの?〉

「うん」

〈佐賀さん、
   来てくれるんじゃないかのう〉

「……うん」

何なんだこの緊迫感に乏しい会話は?!
日溜まりの縁側じゃないんだぞ!



突然緊急性は跳ね上がった。

きゃあああっ

お花ちゃんの悲鳴だ!
くそっ
手足が動かない。

俺は目茶苦茶に
もがき
暴れた。



〈やめといた方がいいぞ〉


老人のすっとぼけた声がする。
だめだ。
危ない。
黙ってないと!


〈あんたらのために
   言っとるんじゃ。

   やめておけ。
   あの男は容赦せんぞ。〉

バンッ
戸棚から転がり出て
必死に見回す。



老人。
老人を囲む男たち。

お花ちゃんがベッドにいる。
男がのしかかっていた。
そのブラウスに
手がかかる。



やめろおおおおおおおっ

いやああああああああっ
佐賀さん!!





悲鳴が
黒い風を呼び込み
お花ちゃんの上の男が吹っ飛んだ。

わらわらと
続いて踏み込んでくる救援隊。
だが、
後続は要らなかったかもしれない。

どうして
そうなったかわからないが
男たちは床に倒れ
呻いていて、

佐賀は
お花ちゃんを抱き締めていた。




〈わしは
   ちゃんと
   言ってやったんじゃよ。

   やめとけと。〉

佐賀が
ピクッと肩を震わせた。

「……佐賀さん?」
お花ちゃんが佐賀を見上げる。

佐賀が仁王立ちに立ち上がり
小さな老人を
はったと
睨み付ける。




お花ちゃんは
初めて聞いたようだ。
怒りに上擦る佐賀の声を。

随分びっくりしていたよ。

『この
  くそじじい!

  次に隠れんぼするときは
  絶対
  一人でやれよ!

  この子を巻き込みやがって
  傷一つでもついてみろ
  許さんからな!

   だいたい
   何回目だ?!

   いつも間に合うとは
   限らないんだぞ!!』

老人は上目遣いでぶつぶつ口答えする。

〈いつも間に合うておるじゃろ。
   退屈じゃったんじゃ。

   坊やも怒っとった。
   放りっぱなしにしとったくせに。

   わしらつまらなかったんじゃ。 〉



あ、
やばいよ
じいさん。

多分やばい。

完全にスイッチが入った。

出会ってから
ここまで
保たれてきた
ものに動じない切れ者の顔は消えた。

多分
お花ちゃんもずっと見てきた
何でも来いよ
上等だの戦士もいなくなった。


キレる保父さん
怒りの権化

じいさんはめそめそし
その手は食うか?!
と佐賀に怒鳴り飛ばされ

お花ちゃんに助けを求め
お花ちゃんが
じいさんを庇い

佐賀の怒りは
トップギヤに入った。

いいか?!
二人とも
言われたところに
大人しくいろ!!


退屈だと?!
何歳だ?!
お前ら何歳になったんだ?!
人の話を聞け!!!




「…………だって」
〈…………だって〉

お花ちゃんの逆襲

見てるって言ったのに
見てなかった!
食べたいものだけ食べていいって言ったのに
食べられなかった!!



老人の逆襲

今日来るなんて聞いてなかった!
なんで
教えてくれなかったの?!


黙れ!!
問答無用だ!!!


ふーん
これ
記事に書けるんだろうか。

それより俺は思う。

さっきのお嬢様たち
この佐賀を見たら
どうするかな。

世の中は意外と公平かもしれない。
格好いい奴にも
ちゃんと
弱点を残しておいてくれる。


まるで茹でタコだよ、佐賀君。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。


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