この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






黒猫物語番外編 パーティー1
2016-01-07 20:11:13
テーマ:クロネコ物語





佐賀は主に依頼していた。

あの子を
じいさんに見せたいのです。
なんとかなりますか?

ある程度は
恥ずかしくない服装を
という意味だった。

まさか
こんな流れになろうとは。

諦念にも似たものが
佐賀の胸中に去来していた。



まず
朝食時に
仔猫は風呂に入れておくように
書き置きがあった。
恋人らしい時間は朝食までだったろうか。



有無を言わさず洗い上げ、

あれこれ封印して
湯に入れ、

なんとか
大人しく体を温めさせ

風呂から上げれば
昼食が並んでいた。



早いなと思いつつ
野菜を中心に
全品一口は食べろと
厳命する。

風呂を我慢で過ごした仔猫は
毛を逆立てていた。
お正月くらいいいでしょと
仔猫の主張を展開する。

脅せば
平気だもんと抱きつき
すかせば
キスをねだる仔猫を

説教し、
涙目にさせ、
一口完食を達成し、
よしよしと抱いて慰めていると
セツが迎えに現れた。




そして今
邸宅の一室に
佐賀はいる。
壁一面がクローゼットだ。

手から奪われた仔猫は
等身大の鏡を前に
きょとんと立たされている。



長かった。

セツは
まず
仔猫を座らせ
髪にブラシをかけ
自然な流れに整えて
何やらスプレーを
かけた。

仔猫は
首を竦めて
大人しくしていた。

ほんとに
可愛くていらっしゃるから
楽しみです。



佐賀にとって
既視感がある流れだった。
あの時はバービー人形だったな。

次は着せ替えタイムか。
溜め息をかみ殺して
佐賀は覚悟を決めたのだ。

どれも似合うから
迷ってしまいます。

そうだろうとも。




仔猫は素直に従っている。
佐賀は
仔猫を見ながら
いつの間にか
ぼんやりと思いに囚われていた。

セツに言われるままに
袖を通す所作にも
咲くことを知った花の蜜は
蝶を誘っている。

その肌は
自分の愛撫を待って仄かに
血の色を浮かべる。

服を剥いでも
なお双丘に隠される蕾は
自分が触れるだけで
その花弁を震わせる。



ほら
鏡を見てくださいな。
なんてお綺麗なんでしょう。

セツのはしゃいだ声に
我に返る。



佐賀は
少年を見る自分の変化に
驚いた。

花びらの散り初むる風情

惜しみなく舞い狂う花びらに
燃え上がり紅潮する肌

花びらに覆い尽くされて
仕留められた獲物は
悦びに満たされる

その姿を
自分だけが知っている。
その満足感の深さに
佐賀は自身を戒めた。

この子を守るには
自分の惑溺から
なんとかしなければなるまい。

………………。
佐賀は
とりあえず
恋人の姿を楽しむことにした。

美しい。
美しいものは美しいのだ。



いつの間にか
主までが入ってきた。

部屋の端にひっそりと立つ佐賀は
今や
完全に
蚊帳の外だった。

すたすた
セツに近寄り
仔猫を眺めては相談し
セツが絞り込んだ中から
主が
一着を
選んだようだ。


濃いワインレッドの上下が
華奢な肢体を包む。

身幅に沿って
ウェストから腰までを包むラインが
細腰を際立たせている。

ダブルにかっちりと胴を包んだ
その上は
真っ白なレースが
胸元から
溢れ、
零れ、
顎から鎖骨の始まりまでを白白と残し
ほっそりと伸びるうなじを
包み込んでいる。

誰もが
そのレースを萼と見立てずには
いられまい。

花の顏(かんばせ)とは
よく言ったものだ。



セツが
その
肌を覗かせた
首もとに
付けさせようと
深紅の石を嵌め込んだチョーカーを
取り出した。


『待って』
初めて佐賀が声を発した。

佐賀は歩み寄り石を確かめて
溜め息をついた。

「ど、どうしたの?」
少年が見上げるのを

『なんでもない。
    本物なんだから
    大切にしろ。

    落とすなよ。』

と流して
主のところに歩み寄る。

『おいくらですか?』

《せいぜい三百万でございますよ。
   あのお子には
   もう少し
   ちゃんとしたものをと思いましたが
   ピジョンブラッドで
   使えそうなものが
   あれしかございませんで。》

佐賀はまた溜め息をついた。
『お願いした以上に
   目立つように思いますが……。』

主は心外なことをと言わんばかりに
大袈裟に手を振る。

《たかが石ころのせいになさいますか。
   あの花は
   佐賀様が咲かせたもの。

   この二夜で
   見事に咲かせなすった。

    お会いしたときは
    床入りで
    萎れるかと
    案じておりましたものを。》

主は
ここで
佐賀にすり寄った。

《いや
   花開きましたなぁ。
   あなた様を溺れさせる器です。

    あの子に狂う男たちが
   ぞろぞろ出て参りますよ。

    お一人で抱えていかれるのは
    やはり
    難しいと思いますがなあ。

    いかがでしょうかのう……。》

既に
主は紋付き袴、
佐賀は黒のフォーマルに
身を固めている。

佐賀は
時計を見て
主に返した。

『もう出る時間では?』

セツが
仕上がった仔猫を連れてきていた。

セツは一礼し
仔猫の手を取り
佐賀の前に立たせ
一歩下がった。

「佐賀様、
   お連れ様のお支度が
   調いました。

   お気に召されましたでしょうか。」

『ありがとう。
   綺麗ですね。』

セツは深々と礼をした。

月下美人です。
お連れ様が
パーティーの花になりますよ。
バラの乙女たちが悔しがるでしょう。

自慢気な主の声は聞き流していた。
佐賀は決めていた。
恋人の姿を楽しもうと。

美しいものは美しいのだ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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