この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





黒猫物語番外編 不在の1週間〈初秋〉1
2015-12-27 19:17:13
テーマ:クロネコ物語



白く凍りつく歩道
アイスバーンの連なる車道

この街の冬は
馬鹿どもも外はうろつかない。


俺達が駆り出されるのは
雪と寒さにやられちまった車から
御老人やら
若い母親やらを
救出する仕事ばかりのこの頃だ。

あいつらは
どこに消えちまったんだか。

秋のことだよ。
まだ秋の始まりだった。
レイプがあった。
いや
未遂……だったんだが………………。

誰かに話したいんだ。
俺が見たものを。
聞いてくれ。



俺は非番だった。
見て分かるだろうが
やもめ暮らしの
50男さ。

まあ
一人暮らしが気に入ってはいる。
寂しい日もあるはあるが、
気に掛けてくれるお節介な友人もいる。

街でショーがあるからってんで
一緒に行こうと誘われた。

公園に隣接するそこは
街一番の繁華街の端っこだ。

実は見廻り重点地区でもある。
公園てやつは
昼と夜では
顔が違うからな。

まあ
非番のときまで
気にしなくてもいいか。




ピカピカのイルミネーション。
派手な看板には
その世界ではスターらしい何人かのポスターが
でかでかと貼られている。
ディナー・ショーという奴だな。

友人夫婦と一緒にテーブルに着くと、
目の前は広々と見渡せる。
こんな周りじゅうから見られるステージじゃ、
演る方も大変そうだ。

なんて考えてるうちに、
友人夫婦は
さっさと注文を済ませてくれ
テーブルにはディナーが運ばれてくる。




照明が暗くなって
ショーの始まりだ。

俺には疎い世界だ。
誰がスターかもわからん。
奥さんに相槌を打ちながら
ボーッと眺めていたよ。

スポットライトが当たり
回ったり
跳んだり
綺麗なもんだなと思ったさ。




そしたら
まあ
大袈裟だと
笑わんでくれ

とてつもなく綺麗な子が出て来たんだ。
笑うなよ。
綺麗なんだ。
本当に。

白い服だった。
衿がひらひらしてさ。
暗くても姿はなんとなくわかる。

チャイニーズかなと思ったな。
別嬪さんのチャイニーズだって。



真ん中に
その子が立って
ライトが当たった。

音楽が鳴って
その子が顔を上げた。

びっくりしたよ。
天使だった。

こう
手を上げるんだ。
その先に
誰がいるんだろうって
俺は探しそうになった。

いや男の子だってのは
すぐ分かった。

フワッて跳ぶんだ。
クルクルッて回転して降りる。

不思議な子だった。
見てると切なくなる。
その子に手を差し伸べられると
胸がざわつくんだ。

軽々と跳ぶ。
舞い上がり舞い降りるんだ。

生き人形みたいに綺麗な子が
フワッ
フワッ
て動き回るんだぞ。

天使だ。
天使が間違って
降りてきちまったんだ。

そう思ったって
おかしかないだろう。

舞い終えて
挨拶するときには
みんな
立ち上がったよ。

な、
俺だけじゃない。
みんな
天使にやられたんだ。




その子は
前座みたいなものらしくて
それから
どんどんプログラムは進んだ。

奥さんも
知らない子だと言う。

俺も
気にはなるが
ディナーは進む。
友人夫婦と談笑しながら
ショーを見ていた。




休憩時間に
トイレに立った。
廊下に出て
どきっとしたよ。

あの子だ。
衣装の上にジャージを羽織ったあの子が
そこにいた。
背の高い男が横にいる。

東洋系だ。
ボディーガード……か?

現実離れしてるが
そんな気がしたんだ。

黒のスーツだからかな。
ほら映画に出てきただろ。
スターを守るボディーガードだ。

前座の子に
そんなものは付かない。
馬鹿な想像さ。

こいつは天使の何なんだろう。
今は知ってる。
知ってても悩むよ。

スーツなのに
堅気の匂いがしない。
その子は
ただ俯いて話を聞いている。

ボディーガードじゃなければ
怪しい奴かと思うさ。

喧嘩馴れしてる。

それは賭けてもいい。
そう思ったんだ。
…………で、気になった。




天使は
ギャングともボディーガードともつかない男に
背を押されて
控え室らしい部屋に入った。

スーツの男は
しばらく
部屋の前でドアを見ていた。

精悍な顔立ちだ。
女が好みそうなアイシュウ?ってやつが
漂う。
ギャングなら
女を釣る役回りか。

サガ!
店のお仕着せを着た奴が
ギャングに呼び掛ける。
なんだギャングじゃなかったのか。




ギャングもどきの ボディーガードが
店員と去るのを見送って
俺は
拍子抜けしていた。

天使は控え室にいる。
ただの出演者だ。
何か起こる?
この子は危ない?

妙に胸騒ぎがするのは
俺が惚れこんだからなんだ。
男の子だぞ。
俺は50男だ。

そう思うと
恥ずかしくなってな。

すぐに
席に戻るのも
気が退けてな。

一人で
赤くなったり
青くなったり
廊下をうろついていたんだ。




そしたら
天使の部屋に
店員が入っていくのが見えたんだ。

ああ
また出るのか。
じゃあ
俺も戻ろうと思った。

ところが、
天使はステージじゃなくて
裏口に連れられていく。

え?
と思った。
するとな、
さっきの店員が気になり始めた。

また
天使にやられて
考えすぎてるのかとも思ったさ。

でも
気になった。

必死に考えてるところに
ボディーガードが戻ってきたんだ。
控え室に入った。




そして、
飛び出してきた。
さっと見渡して
俺と目が合うなり
とんできた。

『失礼!
   東洋系の少年を
   見かけませんでしたか?

  今日の出演者なんですが。』

おそろしく真剣な顔だ。
ものすごく心配してる。
それは分かった。

《あ、ああ、
   さっき店の者が連れていった……》

と言いかけて、
閃いたんだ。

結び付いた!
やっぱりだ!!
あの子は危ない!!!



《違う!
  服が違ってた!

  店員のふりをしてる奴が
  連れてったんだ!!

  裏口だ!!!》

俺は走り出したよ。
気が付いたら
目の前を黒いスーツが走ってる。

俺たちは裏口から
飛び出した。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



人気ブログランキングへ