この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





小景 プリン一つめ
2015-12-21 21:41:02
テーマ:クロネコ物語




枕を外し、
そっとシーツから抱き起こすと、
シーツは涙に濡れている。

その蝶が羽を広げたかの
涙が描いた紋様に

瞬時
胸を突かれたように
狼の手は止まる。




クッションをあてがい
額に
頬に
涙と汗ではりついた髪を
そっと掻きやる。




狼は
秘め事の跡を
誰よりも
仔猫の目に映すまいと
しているようね。




離れようとすると
細い手が
狼の手にかかる。



「ごめんなさい」

微かな風音ほどの囁きが
聞こえる。



『お前を
   こんなに泣かせて。

   それでも
   俺はお前が欲しい。

    許してくれるか?』




細い手が
サガさんの頬に上がる。

「泣いてばかりで
   ごめんなさい。

   これじゃ
   前に進めないね。」



狼はそっと
壊さぬように
仔猫に体重をかける。

優しく包み
語りかける。

『かわいそうに
   とは
   もう言わない。

   俺はお前が欲しい。
   お前は俺が欲しい。

   愛している。

   頑張ってくれて
   ありがとう。』



狼は
仔猫の額に
キスして
微笑む。

『今朝は見事なダッシュだった。
   プリン食べるか?』

「うん。」

仔猫が微笑みを返す。




ひっそりと
クッションに身を沈める仔猫に
サガさんは
一口ずつ
プリンを食べさせる。



その
欠片が
仔猫の胸に落ちた。

あっ、
と動こうとする仔猫をおさえ
狼が胸に唇を這わせる。



沈み込んでいた仔猫の体に
生気が戻り、
ふっと
色香が立ち上る。




狼が口移しに
与えたプリンは

待ちうける仔猫の唇に
するっ、
と落ちる。

そのまま
深々と交わされるキスに

それは
どちらの
口に入ったのやら。



「おいしい。
  …………大好き。」

『何が?
   言ってみろ。』



仔猫が耳元で囁く。

「サガさんが食べさせてくれたプリン」


やっと回復かな。


あなたの若紫は
強いの?
弱いの?


あなたを愛してることは確かね。

嬉しいでしょ。
まだまだ頑張れそうよ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。