この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






小景 停電の夜
2015-12-16 12:27:32
テーマ:クロネコ物語






停電ね。

雪が降り続くと
こんな日もあるわ。



サガさん、
彼を探しにいきましょうよ。
着替えに行ったの。
部屋にいると思うわ。




懐中電灯の光の輪が
クローゼットに蹲る少年を照らし出す。



バスローブのまま
早くも下がり始めた気温に
震える華奢な体。


濡れた髪が光に浮かび
涙の眸、
震える唇に心が痛む。





着替えに来たのよね。
真っ暗になって
怖かった。
怖かったでしょ。

どんどん寒くなって
思い出したの?



誰か来て
誰か来て

待ってたのね。



サガさんが
クローゼットから
コートをとって
彼を包んで抱き上げる。

『だいじょうぶだ。』




そっと居間に連れ帰り
テーブルに置いた小さなランタンに
灯を点す。





なんだか見慣れないものを
ごそごそと出してきていたけれど
早速役に立ったわね。




小さなストーブに
火が入る。



たっぷり重ね着させられた彼は
顔も手も
ますます小さい。




『俺の読みが甘かった。
もう少しもつと思っていた。

一人で怖かったろう。』


「うん。」


『悪かった。』


「ううん。」


彼は
サガさんの胸に頭を預け
じっと火を見詰めている。




「ねえ、
   世界に二人だけみたいだね。」


『…………そうだな。』


「サガさんと二人だけ。」


『…………そうだな。』



火に
照らされる
室内は
まるで違う世界みたい。



影は揺らぎ
小さな結界に
思いは寄り添う。



精悍な顔立ち
優雅な野性を漂わせ
一人の男が火を見詰める。

その胸に抱く少年は
吐息をもらす。




花を抱く狼。

火影に揺れる
美しい幻



静かに
静かに
停電の夜は更ける。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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