この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





サガさんが悲しむから
2015-12-06 20:59:52
テーマ:クロネコ物語




居間には虎姫がいた。
何事もなかったように
ソファに
座っている。



二人の気配にも
顔を動かさない。

仔猫がサガさんを見上げて
それから
虎姫に向かった。


狼は二人をそのままに見詰めている。




「どうして僕をレイプさせようとしたの?」


《言ったでしょ。
   あなたが
   誰にでも脚を開くって
   兄さんに
   教えたげるためよ。》


「僕、
   されなくて
   よかった。

    サガさんが悲しむから。
    僕を守れなかったって
    悲しむから。

    だから
    ちゃんと逃げたんだ。」


《三人じゃ少なかったわね。
   失敗しちゃった。》


「僕、
   何人いても頑張ったよ。
   だって
    サガさんを悲しませたくないもの。」


《あんたが
   他の男によがってる姿を見たら
   兄さんも
   愛想がつきたでしょうに。
   残念だわ。》



「サガさんは変わらないよ。

    どうして
    そんなこと思うの?」


《そうやって信じてなさい。》


「ミチコさんのこと

    サガさん
    忘れてないよ。」


《………………。》



虎姫はバッグから
ハサミを出した。


サガさんが一歩前へ出る。



虎姫は自分の髪をまとめ
ザクッと切った。
その髪をテーブルに投げ出し
仔猫に向き直る。


《あんたは
   どうやって
    兄さんを
    手に入れたの?》

立ち上がる。



《あなたの話し方
   姉さんそっくりね。

   何にも知らないくせに
   お人好しで。

   ただぼーっとしてるくせに
   欲しいものは
   全部もってくのよ。

    思い知らせてやりたかった。
    また失敗しちゃった。》



戸惑う仔猫の前に
サガさんが立ち塞がったわ。



哀しそうに訊ねた。

『お前だったのか。』


《そうよ。
    やっと分かったの?
    姉さんを襲わせたわ。
   兄さんに邪魔されちゃったけどね。

     スーパーマンみたいね。
     愛する人を守ります!

     津波には負けちゃったみたいだけど。》



『俺は
間に合わなかった。』

サガさんは淡々と応える。



ユキが嘲る。

《当たり前でしょ。
   どう間に合うのよ。
   海を越えて。》



サガさんは
淡々と続けた。

『あの夜
間に合わなかった。』



ユキが凍りつく。

《…………うそよ!》

全身の細胞が叫んだみたい。



『間に合わなかった。
   ミチコを連れて病院に行った。
   幸い妊娠はしなかった。

    ミチコは顔を見ていない。
    かなり若いと感じたそうだ。

     お前の学校のグループか?』



肩をいからせて
虎姫は噛みつく。

《そうよ。
   抱かれてやって
   やらせたの。

   いいでしょ?
   同じ連中に
   私もやらせてやったんだから。》


『これもか?』


《世の中
   ただじゃ動かないもの。》



サガさんは
ただ
静かに
見詰めていた。



居間には
触れそうなくらいに
虎姫の悲しい気持ちがふくらんでいた。




「……もう、止めて。」

仔猫が
そっと
話し始めた。


「あなたが
   どこにもいないよ。


    サガさん知ってた。
    ミチコさんも
    きっと知ってた。

    あなたのために
    黙ってたんだ。


    どうして
    そんなことのために
    抱かれたりするの?


    僕、
    最初は
    守ってほしくて
    サガさんに抱かれたかった。

     絶対抱いてくれなかったよ。
     違ってるからだよ。



     今はサガさんが欲しいんだけど
     まだダメって。

      僕を守るためだよ。


      大事にしてよ。
      大事にしなきゃ
      誰も大事にしてあげられない。

      自分がいなくなっちゃうよ。


    サガさんは僕を選んでくれた。
      僕が
      泥だらけになってても
      見付けてくれるって
      言ってくれたよ。


     僕が一生懸命生きてれば
    サガさんは
     見付けてくれる。

    ミチコさんも
      一生懸命生きてたから
    サガさんは見付けられたんだよ。



       自分を大事にしてよ。
       大事にしてほしくて

       今日も
    サガさん
       黙ってるんだから。




    僕、
       ホントに
    サガさんのことだけ
       考えてた。

    サガさんが
       悲しむと思った。



       それに…………
    僕、
    サガさんに抱かれたい。
    サガさんだから
       抱かれたい。

       す、すごく気持ちいいけど
       ほ、ほんとは何も分からなくなっちゃうんだけど、

    サガさんじゃない人に
       そんな怖いことされたくない。



    僕、
    サガさんが変わらないの
       知ってるけど、

      もし
      他の人にされて
      何も分からなくなったら
      すごく
      つらかったと思う。

      ミチコさん
      すごく
      つらかったと思う。

      ミチコさん
      すごく
       ユキさんを
       好きだったんだ。

      死んじゃう最後まで
      ユキさんを
      好きだったんだ。」



仔猫が話し終わり
部屋は
仔猫の思いで満たされたの。



虎姫は
迎えに来たお兄さんに連れられて
帰って行った。


ほんとに一言もしゃべらなくなってた。



あ、
でもね、
お兄さんに促されて
最後に
お辞儀をしていったわ。


キチッと姿勢を正して
まっすぐ二人を見て
深々と頭を下げていった。




いいんじゃないの?
私も
賑やかで
スリルを楽しんだしね。



で、
サガさん
この子抱くの?



画像はお借りしました。
ありがとうございます。


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