この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





その快感だけが
2015-12-04 03:40:57
テーマ:クロネコ物語




サガさんが戻った。


そっと屈みこみ、
抱き起こす。



「サガさん…………」

そのまま胸に抱かれ
仔猫は顔を隠す。

「…………恥ずかしい。」 



狼はからかう。

『俺は
もう一度見たい。
そそられる。』



「…………いじわる。」

二人だけの部屋に
仔猫の甘い喘ぎが響く。



『きれいだ。
   そうやって羞じらってくれ。
   もっと羞じらわせてやる。』

「サガ……さん。」



本当に綺麗。
この子は
こんな風に抱かれるのね。




仔猫の声が
切なく高まる。

狼は仔猫を抱き締め
その長く引く一声を楽しんだ。



満たされて腕に安らぐ仔猫を
狼は見詰める。



聞いておかねばならない。

『ユキが
  こわいのか?』



強張る体を
そっとさすり
その髪にキスをする。

『なぜこわい?』


「サガさんが……とられちゃう気がする。」


『俺はここにいる。』


「…………うん。」

仔猫なりに
分かったことはあるみたい。



恋する相手の全てが欲しい。
恋すると不安ばかりが増えていく。

自分以外を見詰める恋人を殺してやりたい思いもね。



「ユキさん、
  きっと来る。」


『もう入れない。』


「そしたら
   きっと
   方法を考えるよ。

   絶対サガさんを連れてく。」


『急に賢くなったな。

  お前は
  大人しく俺をとられるのか?』


「だって………………
   サガさんの気持ちだもの。

   行っちゃったら
   僕には
   取り戻せないもの。」

じっと身を丸めて
仔猫は考えている。




『俺にチャンスはないのか?』


「……え?」


『ユキが思いつきそうな手はある。
  俺は出掛けていくかもしれない。

  それでも
  心はお前にあると
  信じてもらえないのか?』



狼は仔猫に語る。

『ちがう人間なんだ。
  どんなに思い合っていても
  一つにはなれない。


 心を信じていられなければ
  恋は苦しいだけだ。

  俺が側にいなくても
  俺が愛していることを
  信じるんだ。

  俺はお前を愛してる。
  それだけ信じて
  待っていろ。』



仔猫はじっと聞いていたわ。

自信がないのね。
こうして胸にいられない時間に。



「……おねがい。」

仔猫は狼の胸に頭を擦り付ける。



『言ってみろ。』

狼はからかう。



「お願いだから。」


『言わなきゃわからんぞ。』


「もう一度……して!」




狼はゆっくりと
仔猫にキスをし、
部屋はまた甘くなった。


甘い喘ぎから
快楽の悲鳴へ
仔猫は溺れる。



『俺が分かるか?』

狼は
仔猫に問う。

仔猫の耳には
狼の声も届かない。



自分が狼に喰われている。
その苦痛と快感だけが
仔猫を安心させていた。



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